日々諸々
H21年1月30日登録
ずっと停滞しておりましたが、小噺が書けましたのでUPします。
7月に載っていたYahoo!ニュースが元ネタです。ヅラが喜びそうだな~と思い、その時から小噺にしようと思っていたのですが、一ヶ月以上もたってしまいました。
続きからどうぞ。
拍手ありがとうございました。止まったままのサイトに訪問して拍手をしてくださることのなんとありがたいことか。身にしみております。
7月に載っていたYahoo!ニュースが元ネタです。ヅラが喜びそうだな~と思い、その時から小噺にしようと思っていたのですが、一ヶ月以上もたってしまいました。
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仕事がなかったその日は新八を早めに返して夕飯も早めに用意した。後片付けも済ませて、さて今夜は家でゆっくり酒でも飲もうかと思っていた矢先、外から轟音が響いてきた。外階段を遠慮も気使いもなく駆け上がってくる音だ。次いで通路を踏み抜かんばかりのダダダダッという音が近づいてくる。
「オイオイオイ。なんだよコリャァ。アイツ来ちゃった?」
こんな訪問の仕方をするヤツは知っている限り一人しかいない。余程慌てふためいた依頼人を除いては。
「銀ちゃん。凄い音ネ。これはヤツか? ヤツアルか?」
神楽もこの音の主が誰かちゃんとわかっている。
「そうね。たぶんきっと絶対ヤツだと思うよ」
溜息まじりに銀時が答えたとき、スパーンと玄関扉が開く音がした。そして『銀時ィィィッッッ!! いるか? 銀時ィィィッッッ!!』と呼ばわる声。
「やっぱりヅラネ」
「やっぱりヅラだね」
こっちはこれから家飲みを楽しもうと思っていたのに、アイツはなんの厄介ごとを持ち込んだんだ? やれやれよっこらしょ。そう思いながら思い腰を上げた。玄関からは『銀時。銀時。桂だ。出て来てくれ』とばたばた騒いでいる。
「ダーッ。うっせーンだよ。てめェはッ。てめェだって言われなくたっててめェだってわかってっからその口閉じろ」
文句を言いつつ玄関へ行く。銀時の姿を見て桂の顔がぱああっと輝いた。
「おお銀時。良くぞこの時にいてくれた。いてくれなかったらどうしようかと思っていたぞ」
興奮気味に喋る桂。
イヤイヤイヤ。俺はいないほうが良かったンじゃねーかと思うよ。うん。ぜってーいねェほうが良かったと思う。今からでもどっかへ雲隠れするか、居留守を使えば良かったと思ってるよ。
普段から所作がきちんとしていて、他人の家を訪問するのに階段をバタバタ上がったり、許可無く扉を開けたりすることはない桂がそういうことをする時は。日頃の行いをすっ飛ばすような何かが彼の頭の中を占めているという時だ。そしてそれは大抵禄でもないことなのだ。それをわかっていても、この物騒な男を無下に扱えないのは仕方がない。腐れ縁の幼馴染みとという関係に収まりきれなくなった唯一無二の連れ合いだから。だから面倒だうざいと思いつつも付き合ってしまう。
「そんで? 今度はどんなめんどーなことを持って来たワケ?」
鼻をほじりながらいかにも面倒だという声を出せば、桂は心外だといわんばかりの顔をした。
「何を言うか。俺がいつおまえに面倒事を持ってきたというのだ」
「いつもいつも四六時中」
「む。俺は面倒事など起こさんぞ。人様の手を煩わすようなことはせぬ」
イヤイヤイヤどこの誰がどんな口でそんなこと言っちゃってくれてるワケ? わかってないよね。面倒なことを起こすヤツほど自分が厄介なヤツだってわかってないンだよね。
「そんなことよりこれを見てくれ銀時」
銀時の内心の懊悩など知る由もない桂は自分のことで一杯だ。迷惑がられているなんてこれっぽっちも思っていない。銀時は大きな溜息をついた。
「で? 何を見ろって?」
これだこれを見ろと差し出すのは桂愛用の林檎のノートパソコン。それを開いて起動させようとしている。
「あのさ。玄関先でンなモン開けられてもナンだから。奥行かね」
おおそれはかたじけないと言うと桂はさっさと草履を脱いだ。
「あ。やっぱりヅラネ」
「こんばんは。リーダー」
居間兼事務所で和やかに挨拶をする神楽と桂。
「丁度良い。リーダーもいっしょにこの素晴らしい物を見てくれ」
素晴らしい物ってなにネ? 美味い物アルカ? と神楽は子供らしく興味を惹かれている。
「食べ物ではないがな」
すまぬなリーダーと言って長椅子に座った桂はパソコンを起動させる。ブーンという密かな機械音がしてパソコンがセットアップを始めた。銀時も桂の隣に陣取って何が出てくるのかを待つ。
「こんだけ騒いだんだ。おもしれェモンが出てくるンだろうな。つまんねェモンだったら唯じゃおかねェぞ」
脅しをかけるとまあまあ黙って見ておれと軽くいなされる。かちゃかちゃとキーを叩いてパスワードを入力すると画面が切り替わった。
「なんだこりゃあ?」
画面一面に現れたのは何十体というエリザベス。エリザベス総柄の壁紙画像だ。
「うわあ。エリーがいっぱいネ」
「おええ。キモチワルッ」
「可愛い画像だろう」
喜ぶ神楽に気持ち悪そうに口元を押さえる銀時、そして自慢気な桂。
「可愛いエリザベスの可愛い壁紙なのだが、ついつい数を数えてしまってな。いつの間にか眠ってしまって仕事にならないのがタマに傷なのだ」
ザベスがたくさんいると数えてしまうのは、桂の習性らしい。
「おまえねえ。見せたい物ってこれじゃねェだろうな」
不気味なペンギンオバケの画像だったら蹴りの一発や二発食らわせてやる。
「否。これも俺の自慢の一つだが、見てほしい物はこれではない。他にある」
エリザベス総柄のためとても見難くなっているデスクトップのアイコンを桂がクリックした。すると銀時も電脳茶屋で見たことのあるポータルサイトであるyahhoo!の画面が出てきた。
「これだ! ここを見てくれ!」
興奮気味に桂が画面の一部分を指差した。それは今日のトピックスと書かれたニュースの部分だった。そこには『夜空に輝く赤い肉球、猫の手星雲』と書かれた見出しと写真。
「どうだすごいだろう銀時。宇宙に燦然と輝く巨大な肉球だ。これを目にしていても立ってもいられなくなってこれは是非銀時にも見せねばならぬと思うたのだ」
桂は大興奮だ。
「宇宙というのはすごいのだな。我らの母なる星だけでなく、リーダーの星だけでなく、肉球まで擁しているとは奥が深い。俺は宇宙に対する考えを改めたぞ」
「あー? どれが肉球だってェ? なんかガスみてェなモヤモヤしたモンが四個くれェあるだけだぞ」
おめェわかるか? と神楽にも聞く。
「そうアルなあ…。猫の手と言われてみればそう見えなくもないけど…。銀ちゃんの言う通りモヤモヤしてて良くわからないアル」
これでヅラが興奮する意味もなと付け加える神楽。
「なにを言っているのだ二人とも。想像力を働かせるんだ。ここが爪でここが指でここが麗しの肉球だぞ」
一々指をさして説明をする桂だが、銀時と神楽の反応は今一つ。
「そんで? おめェが見せたかったモンってコレ?」
今更なことを聞くと云々と桂が元気良く頷いた。
「あのさあ。おめェさあ。こんなモンで興奮して物凄い勢いでウチに来たワケ?」
「こんなモンとはなんだ。素晴らしい物ではないか。宇宙規模の肉球だぞ」
「へーへー。わーってますよ。おめェの肉球好きは。だけど俺にはどう見ても肉球には見えないンだケド」
無類の肉球好きにはこのガスでモヤモヤした塊が肉球に見えるのだろう。しかしさして興味のない銀時には赤いガスの塊にしか見えない。
「銀時。俺はこの肉球たちを間近で見るぞ」
「ハイィィ?」
「これらを放っておくなど俺にはできん。もっと近くでしかりと見るために宇宙に行くことにした」
「ナンデスト?」
「坂本に連絡をした。都合の良いことに地球の傍を通ると言うので寄ってもらうことになった。快臨丸に乗せてもらうのだ」
「バカ本と宇宙にいくだあ?」
さすがに桂だ。行動が素早い。相変わらず自分の趣味嗜好に貪欲なやつだ。そしてやることが極端な事も相変わらず。
しかし銀時は桂が坂本に連絡を取ったということが気に入らなかった。坂本はなにかと桂にちょっかいを出すので要注意なのだ。
「おめェ。なんで黒モジャなワケ? なんで先に俺に相談しないワケ?」
「坂本なら宇宙に連れて行ってくれるからだ。それとも何か? おまえに相談したら猫の手星雲を見に連れて行ってくれるとでも言うのか?」
「エ? イヤイヤイヤ。それはまあナイというかナイケド」
「そうであろう。おまえには俺を宇宙に連れて行く手段も甲斐性もないではないか。坂本を頼ってなにが悪い」
「どーせ俺は甲斐性のない貧乏人ですよー」
銀時がむくれたのを見て桂が困った顔をする。
「坂本が気に入らないなら高杉に頼めば良かったか?」
「高杉ィ? アイツはもっとダメ。ダメっつったらぜってーダメ」
そう言うと思うていたから坂本に頼んだのだとブツブツ。
「むくれるな銀時。俺だけ宇宙の肉球を楽しむ事はしないぞ。さあ。おまえも支度をしろ。いっしょに宇宙に行くぞ」
「ハイィィ?」
これを見に、この赤いモヤモヤを見に宇宙に行くのか?
いや俺はいいから。赤い肉球に興味はねェしバカ本の船に乗るのも御免こうむるからと言おうとしたのに桂は早く支度をしろと急かす。そのうちに家の外からゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきた。まさかと思った銀時は桂に確かめる。
「おめェ。あのバカにどこに迎えに来いっつった?」
「銀時もいっしょに連れていくから銀時のところへと」
さも当然と答える桂。それを聞いて青ざめる銀時。
「なにか不都合があったか?」
「不都合もなにも大有りだっつーのッッッ!!!」
そうこうしているうちにもゴゴゴゴゴゴという音は大きくなっていく。
逃げるぞ神楽、アイアイサー銀ちゃんと銀時と神楽の二人は玄関に向かって走り出した。
「おおーい。そんなに慌てなくてもおまえ達を置いて行ったりはしないぞ」
居間の長椅子では桂がのほほんと座っている。困ったやつらだ。興味はないとか宇宙には行かないと言っておきながら我先にと飛び出すとは。本当は肉球を見に宇宙に行きたかったのだな。それならそうと素直に言えば良いものを。
「おおーい。俺も行くから待ってくれ」
玄関に向かって声をかけると銀時がダダダダッと戻ってきた。
「このバカヅラ。のんきに座ってンじゃねェ。さっさと来い」
「今行こうとしていたぞ。うわわっ!!」
桂が話しているのを最後まで聞かずに、腕をつかんで引きずるように連れ出した。銀時草履がはけていないというのも耳をかさずに、そのまま通路を走って階段下を目指す。
「神楽ッ! 退避だ退避~~~ッッッ!!!」
スナックお登勢の前まで逃げてくるのと、めりめりと音をたてて万事屋の屋根に宇宙船が突き刺さったのは同時だった。
「こっこれはなんと…」
桂は宇宙船が刺さって半壊した屋根に目を瞠って驚いている。
「だから嫌なんだよ。あの黒モジャのバカが地球に降りてくるのは~~~。また家がぶっ壊れちまったじゃねーか」
「銀時のところに迎えに来てくれとは言ったが屋根に不時着しろとは言わなんだ」
「これじゃ宇宙に行くどころじゃねーぞ」
銀時は宇宙船と壊れた屋根をうんざりと見やった。もう少ししたら坂本が姿を現し、あの豪快な高笑いをしながら『すまんの~。金時。着陸地点をちくっと誤ってしもうたじゃき』と言うのだ。
「どうしよう銀時。万事屋の屋根が。坂本は無事なのだろうか?」
おろおろしている桂。
「バカは百篇不時着したって死にやしねーよ。というかこの惨状はてめェのせいだろ。てめェが宇宙に行きたいとか言い出したからこうなったンだろ」
あーあ。やっぱりコイツ厄介事を持って来たよ。坂本が出てきたら桂と二人まとめて張り倒してやろうか。
「オイオイオイ。なんだよコリャァ。アイツ来ちゃった?」
こんな訪問の仕方をするヤツは知っている限り一人しかいない。余程慌てふためいた依頼人を除いては。
「銀ちゃん。凄い音ネ。これはヤツか? ヤツアルか?」
神楽もこの音の主が誰かちゃんとわかっている。
「そうね。たぶんきっと絶対ヤツだと思うよ」
溜息まじりに銀時が答えたとき、スパーンと玄関扉が開く音がした。そして『銀時ィィィッッッ!! いるか? 銀時ィィィッッッ!!』と呼ばわる声。
「やっぱりヅラネ」
「やっぱりヅラだね」
こっちはこれから家飲みを楽しもうと思っていたのに、アイツはなんの厄介ごとを持ち込んだんだ? やれやれよっこらしょ。そう思いながら思い腰を上げた。玄関からは『銀時。銀時。桂だ。出て来てくれ』とばたばた騒いでいる。
「ダーッ。うっせーンだよ。てめェはッ。てめェだって言われなくたっててめェだってわかってっからその口閉じろ」
文句を言いつつ玄関へ行く。銀時の姿を見て桂の顔がぱああっと輝いた。
「おお銀時。良くぞこの時にいてくれた。いてくれなかったらどうしようかと思っていたぞ」
興奮気味に喋る桂。
イヤイヤイヤ。俺はいないほうが良かったンじゃねーかと思うよ。うん。ぜってーいねェほうが良かったと思う。今からでもどっかへ雲隠れするか、居留守を使えば良かったと思ってるよ。
普段から所作がきちんとしていて、他人の家を訪問するのに階段をバタバタ上がったり、許可無く扉を開けたりすることはない桂がそういうことをする時は。日頃の行いをすっ飛ばすような何かが彼の頭の中を占めているという時だ。そしてそれは大抵禄でもないことなのだ。それをわかっていても、この物騒な男を無下に扱えないのは仕方がない。腐れ縁の幼馴染みとという関係に収まりきれなくなった唯一無二の連れ合いだから。だから面倒だうざいと思いつつも付き合ってしまう。
「そんで? 今度はどんなめんどーなことを持って来たワケ?」
鼻をほじりながらいかにも面倒だという声を出せば、桂は心外だといわんばかりの顔をした。
「何を言うか。俺がいつおまえに面倒事を持ってきたというのだ」
「いつもいつも四六時中」
「む。俺は面倒事など起こさんぞ。人様の手を煩わすようなことはせぬ」
イヤイヤイヤどこの誰がどんな口でそんなこと言っちゃってくれてるワケ? わかってないよね。面倒なことを起こすヤツほど自分が厄介なヤツだってわかってないンだよね。
「そんなことよりこれを見てくれ銀時」
銀時の内心の懊悩など知る由もない桂は自分のことで一杯だ。迷惑がられているなんてこれっぽっちも思っていない。銀時は大きな溜息をついた。
「で? 何を見ろって?」
これだこれを見ろと差し出すのは桂愛用の林檎のノートパソコン。それを開いて起動させようとしている。
「あのさ。玄関先でンなモン開けられてもナンだから。奥行かね」
おおそれはかたじけないと言うと桂はさっさと草履を脱いだ。
「あ。やっぱりヅラネ」
「こんばんは。リーダー」
居間兼事務所で和やかに挨拶をする神楽と桂。
「丁度良い。リーダーもいっしょにこの素晴らしい物を見てくれ」
素晴らしい物ってなにネ? 美味い物アルカ? と神楽は子供らしく興味を惹かれている。
「食べ物ではないがな」
すまぬなリーダーと言って長椅子に座った桂はパソコンを起動させる。ブーンという密かな機械音がしてパソコンがセットアップを始めた。銀時も桂の隣に陣取って何が出てくるのかを待つ。
「こんだけ騒いだんだ。おもしれェモンが出てくるンだろうな。つまんねェモンだったら唯じゃおかねェぞ」
脅しをかけるとまあまあ黙って見ておれと軽くいなされる。かちゃかちゃとキーを叩いてパスワードを入力すると画面が切り替わった。
「なんだこりゃあ?」
画面一面に現れたのは何十体というエリザベス。エリザベス総柄の壁紙画像だ。
「うわあ。エリーがいっぱいネ」
「おええ。キモチワルッ」
「可愛い画像だろう」
喜ぶ神楽に気持ち悪そうに口元を押さえる銀時、そして自慢気な桂。
「可愛いエリザベスの可愛い壁紙なのだが、ついつい数を数えてしまってな。いつの間にか眠ってしまって仕事にならないのがタマに傷なのだ」
ザベスがたくさんいると数えてしまうのは、桂の習性らしい。
「おまえねえ。見せたい物ってこれじゃねェだろうな」
不気味なペンギンオバケの画像だったら蹴りの一発や二発食らわせてやる。
「否。これも俺の自慢の一つだが、見てほしい物はこれではない。他にある」
エリザベス総柄のためとても見難くなっているデスクトップのアイコンを桂がクリックした。すると銀時も電脳茶屋で見たことのあるポータルサイトであるyahhoo!の画面が出てきた。
「これだ! ここを見てくれ!」
興奮気味に桂が画面の一部分を指差した。それは今日のトピックスと書かれたニュースの部分だった。そこには『夜空に輝く赤い肉球、猫の手星雲』と書かれた見出しと写真。
「どうだすごいだろう銀時。宇宙に燦然と輝く巨大な肉球だ。これを目にしていても立ってもいられなくなってこれは是非銀時にも見せねばならぬと思うたのだ」
桂は大興奮だ。
「宇宙というのはすごいのだな。我らの母なる星だけでなく、リーダーの星だけでなく、肉球まで擁しているとは奥が深い。俺は宇宙に対する考えを改めたぞ」
「あー? どれが肉球だってェ? なんかガスみてェなモヤモヤしたモンが四個くれェあるだけだぞ」
おめェわかるか? と神楽にも聞く。
「そうアルなあ…。猫の手と言われてみればそう見えなくもないけど…。銀ちゃんの言う通りモヤモヤしてて良くわからないアル」
これでヅラが興奮する意味もなと付け加える神楽。
「なにを言っているのだ二人とも。想像力を働かせるんだ。ここが爪でここが指でここが麗しの肉球だぞ」
一々指をさして説明をする桂だが、銀時と神楽の反応は今一つ。
「そんで? おめェが見せたかったモンってコレ?」
今更なことを聞くと云々と桂が元気良く頷いた。
「あのさあ。おめェさあ。こんなモンで興奮して物凄い勢いでウチに来たワケ?」
「こんなモンとはなんだ。素晴らしい物ではないか。宇宙規模の肉球だぞ」
「へーへー。わーってますよ。おめェの肉球好きは。だけど俺にはどう見ても肉球には見えないンだケド」
無類の肉球好きにはこのガスでモヤモヤした塊が肉球に見えるのだろう。しかしさして興味のない銀時には赤いガスの塊にしか見えない。
「銀時。俺はこの肉球たちを間近で見るぞ」
「ハイィィ?」
「これらを放っておくなど俺にはできん。もっと近くでしかりと見るために宇宙に行くことにした」
「ナンデスト?」
「坂本に連絡をした。都合の良いことに地球の傍を通ると言うので寄ってもらうことになった。快臨丸に乗せてもらうのだ」
「バカ本と宇宙にいくだあ?」
さすがに桂だ。行動が素早い。相変わらず自分の趣味嗜好に貪欲なやつだ。そしてやることが極端な事も相変わらず。
しかし銀時は桂が坂本に連絡を取ったということが気に入らなかった。坂本はなにかと桂にちょっかいを出すので要注意なのだ。
「おめェ。なんで黒モジャなワケ? なんで先に俺に相談しないワケ?」
「坂本なら宇宙に連れて行ってくれるからだ。それとも何か? おまえに相談したら猫の手星雲を見に連れて行ってくれるとでも言うのか?」
「エ? イヤイヤイヤ。それはまあナイというかナイケド」
「そうであろう。おまえには俺を宇宙に連れて行く手段も甲斐性もないではないか。坂本を頼ってなにが悪い」
「どーせ俺は甲斐性のない貧乏人ですよー」
銀時がむくれたのを見て桂が困った顔をする。
「坂本が気に入らないなら高杉に頼めば良かったか?」
「高杉ィ? アイツはもっとダメ。ダメっつったらぜってーダメ」
そう言うと思うていたから坂本に頼んだのだとブツブツ。
「むくれるな銀時。俺だけ宇宙の肉球を楽しむ事はしないぞ。さあ。おまえも支度をしろ。いっしょに宇宙に行くぞ」
「ハイィィ?」
これを見に、この赤いモヤモヤを見に宇宙に行くのか?
いや俺はいいから。赤い肉球に興味はねェしバカ本の船に乗るのも御免こうむるからと言おうとしたのに桂は早く支度をしろと急かす。そのうちに家の外からゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきた。まさかと思った銀時は桂に確かめる。
「おめェ。あのバカにどこに迎えに来いっつった?」
「銀時もいっしょに連れていくから銀時のところへと」
さも当然と答える桂。それを聞いて青ざめる銀時。
「なにか不都合があったか?」
「不都合もなにも大有りだっつーのッッッ!!!」
そうこうしているうちにもゴゴゴゴゴゴという音は大きくなっていく。
逃げるぞ神楽、アイアイサー銀ちゃんと銀時と神楽の二人は玄関に向かって走り出した。
「おおーい。そんなに慌てなくてもおまえ達を置いて行ったりはしないぞ」
居間の長椅子では桂がのほほんと座っている。困ったやつらだ。興味はないとか宇宙には行かないと言っておきながら我先にと飛び出すとは。本当は肉球を見に宇宙に行きたかったのだな。それならそうと素直に言えば良いものを。
「おおーい。俺も行くから待ってくれ」
玄関に向かって声をかけると銀時がダダダダッと戻ってきた。
「このバカヅラ。のんきに座ってンじゃねェ。さっさと来い」
「今行こうとしていたぞ。うわわっ!!」
桂が話しているのを最後まで聞かずに、腕をつかんで引きずるように連れ出した。銀時草履がはけていないというのも耳をかさずに、そのまま通路を走って階段下を目指す。
「神楽ッ! 退避だ退避~~~ッッッ!!!」
スナックお登勢の前まで逃げてくるのと、めりめりと音をたてて万事屋の屋根に宇宙船が突き刺さったのは同時だった。
「こっこれはなんと…」
桂は宇宙船が刺さって半壊した屋根に目を瞠って驚いている。
「だから嫌なんだよ。あの黒モジャのバカが地球に降りてくるのは~~~。また家がぶっ壊れちまったじゃねーか」
「銀時のところに迎えに来てくれとは言ったが屋根に不時着しろとは言わなんだ」
「これじゃ宇宙に行くどころじゃねーぞ」
銀時は宇宙船と壊れた屋根をうんざりと見やった。もう少ししたら坂本が姿を現し、あの豪快な高笑いをしながら『すまんの~。金時。着陸地点をちくっと誤ってしもうたじゃき』と言うのだ。
「どうしよう銀時。万事屋の屋根が。坂本は無事なのだろうか?」
おろおろしている桂。
「バカは百篇不時着したって死にやしねーよ。というかこの惨状はてめェのせいだろ。てめェが宇宙に行きたいとか言い出したからこうなったンだろ」
あーあ。やっぱりコイツ厄介事を持って来たよ。坂本が出てきたら桂と二人まとめて張り倒してやろうか。
あッッッッと言う間に一ヶ月が過ぎ去りました。この間ブログ、TEXT共に更新がなく申し訳ないことです。
プライベートの重大案件に気を取られて話を書くのもままならぬ状態です。本当は中編くらいの連載の一回目を一月中に上げたかったのにできませんでした。書ける時が来たら書けると今は自分に言い聞かせています。
今日は小噺ができましたのでUPします。以前に「紫陽花の前に佇む銀桂」のイラストを下さったT様のサイトの日記に描かれていたイラストをヒントに書きました。イラストも掲載して良いよとのありがたいお言葉に甘えて、本日の小噺はT様のイラスト付きです。
続きからどうぞ。
日々の拍手をありがとうございます。最近何もしていないのに、お出でくださる方々がいて拍手をいただいて、本当にありがたいことだと思っております。
プライベートの重大案件に気を取られて話を書くのもままならぬ状態です。本当は中編くらいの連載の一回目を一月中に上げたかったのにできませんでした。書ける時が来たら書けると今は自分に言い聞かせています。
今日は小噺ができましたのでUPします。以前に「紫陽花の前に佇む銀桂」のイラストを下さったT様のサイトの日記に描かれていたイラストをヒントに書きました。イラストも掲載して良いよとのありがたいお言葉に甘えて、本日の小噺はT様のイラスト付きです。
続きからどうぞ。
日々の拍手をありがとうございます。最近何もしていないのに、お出でくださる方々がいて拍手をいただいて、本当にありがたいことだと思っております。
銀時は冬の道を背中を丸めて歩いていた。クサクサした気分で歩いていた。仕事も無いのに寒い外をしかもクサクサした気分で歩いている理由はこうだ。
最近万事屋の三人+一匹の家での居場所はこたつのある和室。用事がなければ日がな一日こたつに突っ込まってごろごろしている。今日も今日とていつものように全員でこたつの一角ずつを占めていた。新八はお通のCDをヘッドホンで聞き、神楽はみかんを食べながら時代劇の再放送を見て、定春は居眠りをして、そして銀時は寝そべって片肘をついてジャンプを眺めていた。
三人三様こたつで各々の時間を過ごしていたのだが、神楽が文句を言ったのをきっかけにケンカになった。銀時の足が自分の足に当たって気持ち悪いと言うのだ。誰しもこたつの中では足を伸ばしていたい。その欲求に従っていただけなのに、神楽がぶうぶう文句を言い始めた。中は狭いのだからもっと他人に気を使って足もぶつからないように位置を加減してこたつに入れと言う。
銀サンは足が長いンですゥこたつ一杯占領するくらい長いンですゥ。すいませんね足が長くって。俺はこれ以上避けられないから、足が当たって嫌ならおめェが避けろと反論した。
しかし神楽がすんなりと聞き入れるワケがない。銀ちゃんの足は臭いネ。こたつで暖まると臭さ三倍増しになるアル。それにこたつの中で屁もこくネ。これだかオヤジは嫌アル。臭くて仕方がないネ。おお~臭々と鼻を摘む神楽。
そのせいで銀時はぶちっと切れた。俺が臭ェっつンなら定春はどうなるんだよ。定だって暖まって獣臭ささ三倍増しだぞ。それに俺より定の方が場所取ってンじゃねェかと食ってかかった。定春を引き合いに出したら、神楽は定春の肩を持つ。
定春はいいアル。定春の毛並は当たっても気持ちいいネ。銀ちゃんみたくゴツゴツしてないもん。とあー言えばこー言うのいつもの口ゲンカになった。
まあまあ銀さんも神楽ちゃんもそんなこと言わないで。仲良く暖まりましょうよと新八がとりなしたが、そのころには銀時はすっかり腹を立てていた。
あーもういいですよ。そんなに邪魔なら銀サンは出て行きますよ。おめェらだけ好きなだけこたつで暖まって、ゆでだこになりやがれコンチクショーと捨て台詞を残して家を出てきたのだった。
「ふえ~。さむさむ。やっぱ外は寒ィーよな。短気起こさねェで家にいれば良かったかな」
しかし神楽の悪たれ顔が浮かんでやっぱり腹が立った。
「これからどうすっかな。暖けェとこに行きてェよな」
尻ポケットから財布を抜き出して中身と相談する。生憎財布も寒いと訴えかけてきた。十二月は降るほど仕事があって相当に稼いだのに、年越しや正月の準備に費やし家賃を綺麗にして残った金もなんやかんやといつの間にかなくなった。金が手元にあると気が大きくなって散在してしまうのだ。貯蓄する気など毛頭ない。そして十二月はあれほど忙しかったのに、一月に入ってからはほとんど仕事の依頼がない。故に一月半ばになって万事屋はいつもの貧乏所帯に戻っていた。
「はあ~ぁ。しけてンなあ。これじゃパチンコも行けねェし甘味も食いに行けやしねェ」
パチンコも甘味処も行けないとなると行くところはもう一つしかない。
「ヅラんち行こ。アイツんちなら暖けェし甘いモンも出してくれンだろ」
銀時は桂の家への道を歩き出した。
「引越ししたって話は聞いてねェからまだあのうちに住んでンだよな」
つい十日ほど前に桂の家に訪れた。現在桂はかぶき町にある長屋の一間を借りて住んでいる。長屋の奥さん連中ともすっかり仲良くなって食べ物の差し入れが後を絶たないと聞いて呆れたものだ。指名手配犯の攘夷志士だと知ってか知らずか、奥さん連中は独り身の桂の世話を焼きたいらしい。きっとお尋ね者だと知っていても通報などしないのだ。桂は市井の人々に人気がある。それは彼の容姿のおかげか人徳なのか。
「イヤイヤイヤ。アイツに人徳はねェだろ。アイツにあンのは妄想電波だけだから」
自分で思ったことに自分でツッコンで長屋への道を辿った。
表通りから裏通りに入ると狭い道が続き両脇にずらりと長屋が連なっていた。ターミナル周辺はいかにも近代都市という風情を見せているが、一歩奥に入れば一昔前の江戸が残っている。桂はそういう場所が好きなのだ。そして銀時も嫌いではない。ごちゃごちゃとした所に身を置くと却って落ち着くのだ。
「家にいるよなアイツ。出かけてねェよなアイツ。会合とか会合とか会合とかさ。うん。銀サンがお出ましなんだからゼッテーいる。アイツは家にいる」
寒い中出かけてきて門前払いでは余りに切ない。そのまま家に帰るのはものすごく悔しい。
家にいてくれよヅラと祈りつつ歩いていると、長屋の出入り口から出てくる人があった。濃紺の羽織りに藍の着物を着たその人は桂。
(お。ヅラじゃん。やった。やっぱ家にいた。しかもこのタイミング。俺が来たのがわかったのか?)
桂の在宅にほっとしながら足を速めた。ヅラと名前を呼ぼうとした時、桂が家の中に向かってなにやら声をかけていた。続いて出て来たのは白い巨体。それを見て銀時はさっと長屋の角に隠れた。見つからないように顔半分だけ出して様子を窺う。
(なんだよなんだよ。ペンギンオバケもいるんじゃん。アイツら揃ってお出かけか?)
どうやら二人は出かけるらしい。
「エリサベス。今日も冷えているからこの帽子を被ると良い。頭を冷やすと風邪を引くからな」
言いながら桂は巨大な帽子をエリザベスに被せていた。黄色い毛糸で編まれ天辺にはボンボンが付いている。そして白い糸で頭文字のEの縫い取り。
「良く似合うぞぅ。エリザベス。やはり特注で作ってもらって良かったな。冬になるとおまえの頭が寒そうで気になっていたのだ。これで今年は暖かいぞぅ」
帽子に両手を当てて桂は得意満面だ。
『桂さんもこれを』
エリザベスがプラカードをさっと掲げ、ストールを出した。厚手の生地の薄桃色をしたストールはいかにも暖かそうだ。エリザベスが桂の体にふわりとストールをかけた。
「ありがとうエリザベス。おまえは良く気が付くな」
『そのストール似合いますよ桂さん。素敵です』
「俺よりもおまえの帽子のほうが似合っているぞ」
『いいえ。桂さんのこそ』
二人は微笑み合って延々とお互いを褒めていた。それを見ていた銀時はなんだかむず痒くなってきた。
(ナンなんだアイツら? ナニ薄ら寒ィことやってンだ? イイ年したおっさんが道の真ん中でなんでキャッキャイチャイチャしてるンだ? 寒ィ上に気持ち悪ィこと山のごとしだよ。唯でさえ寒ィのが三倍増しで寒ィ
よ。誰か何とかしてくれよあのバカ二人)
せっかく桂の家で暖まっておやつを食べようと思っていたのに、一人と一匹の気持ち悪い光景を見て、余計に寒くなってしまったではないか。
銀時は二人に向かってダダダッと走っていた。そのままの勢いで飛び蹴りを喰らわせた。
「ぐはあっっっ!!!」
『あべしっっっ!!!』
叫び声を上げて道に転がる桂とエリザベス。
「ろ…狼藉者め。何をするのだ…」
桂がよろよろと起き上がる。エリザベスは怒りマークが書かれたプラカードを掲げていた。
「ナニをするじゃねー。てめェらの方こそナニやってンだ?」
ふんっとばかりに銀時は二人の前に仁王立ちになった。
「おお…。銀時ではないか。こんなところでどうしたのだ?」
「どーしたもこーしたもねーッッッ!!! てめェらこそどうしたアッッッ!!!」
桂は『ん?』 と首を傾げた。しばし考えている様子。
「もしやすると今狼藉を働いたのは貴様か? 銀時」
「狼藉なんて働いてませんー。飛び蹴りなら喰らわせたケドね」
「それが狼藉でなくて何なのだ? やはりおまえがやったのだな。何をする銀時。痛いではないか」
「だァかァらァ。てめェらがナニをしてンのかって聞いてンの」
桂は立ち上がるとぱんぱんと着物についたほこりを払った。エリザベスも立ち上がり落ちていた桂のストールを拾った。
「俺達は散歩に行くところだ。寒いからしっかり防寒してな」
ほら見ろエリサベスの帽子。可愛いだろう? 俺が図案を考えて作ってもらったのだぞと巨大な帽子を指差し自慢するのにこめかみが引きつった。
『桂さん。ストールをかけないと。寒いですよ』
エリザベスが優しい手つきで桂をストールでくるむ。ありがとうエリザベスと桂が相好を崩す。それらを見て銀時のこめかみで血管が切れた。桂とエリザベスの頭にゴンゴンとげんこつが落ちた。
「さっきから何なのだ? 銀時。何故乱暴をする?」
桂が頭を押さえて言い募る。エリザベスは『殺!!!!』のプラカードを手にしている。
「キモイんだよおめーら。何で帽子被せてやったりストール巻いてやったりしてンの? ンなこと自分でできるだろ? それとも一人でできないくれェお子様なの?」
「何を怒っているのかと思えばそんなことか。さては銀時。俺達の仲睦まじい様子を見てヤキモチを妬いたのだな。尻の穴の小さいやつめ」
桂がふふんと言う。
「ナニ言っちゃってくれてンのかなヅラ君は。はあ? 俺がヤキモチ? ンなモン妬くワケねェだろ。てめェらに餅妬くンなら自分に餅焼いて食うわ」
「ヅラ君じゃない。桂だ。仕方のないやつだなおまえは。誤魔化しても俺には通用しないぞ。おまえは幼き頃から仲間外れにされるとすねるやつであったからな。それでいて自分からは輪に加わろうとせぬ。全く困ったやつだ。俺とエリザベスは主従の関係だ。睦まじくて当然であろう」
「だからヤキモチなんか妬いてねェッてッッッ!!! それに俺は仲間外れになっててもすねたことなんてありませんーーーー」
ヤレヤレと言う様に桂は溜息をついた。そして懐から手拭を出した。
「そら頭を貸せ銀時。おまえにも防寒の支度をしてやろう」
「ハイィィ?」
銀時が咄嗟の行動ができないでいるうちに、桂は癖の強い白い頭に手拭を巻いた。
「これで俺達と同じだ。暖かいだろう? さあ一緒に散歩に行こ…」
「誰が行くかァァァァッッッッ!!!!」
手拭をむしり取ると、ボディーブローをお見舞いした。
寒い日が続き、インフルエンザも流行ってきました。皆様も暖かくして毎日お過ごしください。
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
ということで、三が日も本日で終わり。三日間これという特別な事も無く、普段通りいつも通りのお正月を過ごしました。コレと言える物があれば、一日に地震があったことでしょうか。ちょど某大型量販店にいて、ぐらっと来ました。商品が高く積まれた棚の間にいましたので恐かったです。商品も落ちていたし、揺れに合わせて鳴る棚のがしゃがしゃ言う音が不気味。昨年三月の地震を忘れるなよと言うことかなと思いました。
今年もゆっくりではありますが、話を書き連ねていこうと思っています。筆慣らしに軽く小噺でも。続きへどうぞ。
拍手ありがとうございました。今年もがんばりまっす。
ということで、三が日も本日で終わり。三日間これという特別な事も無く、普段通りいつも通りのお正月を過ごしました。コレと言える物があれば、一日に地震があったことでしょうか。ちょど某大型量販店にいて、ぐらっと来ました。商品が高く積まれた棚の間にいましたので恐かったです。商品も落ちていたし、揺れに合わせて鳴る棚のがしゃがしゃ言う音が不気味。昨年三月の地震を忘れるなよと言うことかなと思いました。
今年もゆっくりではありますが、話を書き連ねていこうと思っています。筆慣らしに軽く小噺でも。続きへどうぞ。
拍手ありがとうございました。今年もがんばりまっす。
正月元旦だというのに気分が弾まないのは桂がいないせい。桂が新年の挨拶に来ないせい。桂がかぶき町に、ひいては江戸にいないせい。
銀時は手に持ったはがきを見て溜息をついた。数えれば七枚。差出人は全て同じ。桂からの物だ。
「なんなのコレ? なんで七枚も送ってくるワケ? それもみんな年賀状ってどういうコト?」
七枚のはがきには全て『明けましておめでとうございます』と書かれている。すべて銀時宛に。
「七枚も年賀状送ってくる暇があるんなら会いに来いや。ったく空気読めねェ電波バカが」
悪態はついてもそこは連れ合いからの年賀状。無下に扱う事もできずに既に眺めつくしたはがきをもう一度一枚目から見る。明けましておめでとうに続く文言ははがきによって少しずつ違う。はがきも年賀葉書だったり絵はがきだったりしている。桂がはがきを書いた場所が都度都度違うからだ。
桂は今江戸にいない。十二月の半ばからずっといない。地方の攘夷党の支部を回っているのだ。帰ってくるのは一月半ばと聞いている。長く江戸を離れる時は桂は必ず銀時にそれを言い置いていく。行方不明になったのではないかといらぬ心配をさせないために。だから今回もいつものように桂は律儀に万事屋を訪ねて年末年始にいないことを告げていった。銀時もいつものように「あっそう」と言って桂を見送った。攘夷のことは我関せずなので素っ気無く実に素っ気無く。しかし桂が本当に江戸を旅立ってから、どうして止めなかったのかと猛烈に後悔した。だって十二月の半ばからは行事が目白押しではないか。クリスマスだって大晦日だって新年だってやってくる。それをそれらの全てを桂無しで過ごせというのか。そう思ったらいてもたってもいられなくなって、桂の家に押し掛けてみたが既に桂は江戸を出た後だった。
別にクリスマスだからはしゃぐ訳ではない。大晦日だって新年だって神楽と新八と過ごせば良い訳で。桂がいなくたって日々は過ぎていく。でも江戸で再会してからクリスマスも大晦日もなんやかんやと一緒に過ごしていた。新年だって必ず挨拶に来てくれた。それが通例になっていたから、桂無しの年末年始を過ごすことになるなんて思わなかった。それがこんなに寂しいとは思わなかった。
「ったくよォ。こんなはがきで誤魔化そうったってそうはいかねェよ。だいたいなんだよこのはがき。年賀状っつかアイツの旅日記じゃねェか。っつか七枚も書くなら手紙にしろよ」
桂は地方を転々としているらしく、違う場所の絵はがきが三枚ある。そしてはがきにもその場所の特色なんかがしたためてあって、年賀状というよりも旅の報告のようだ。
「こんなの七枚じゃなくってよ。おめェが一人来てくれればそれでいいのによ」
桂が七枚も年賀状を送ってきた理由はわかっている。自分の不在の埋め合わせをしているのだ。だから日記のようにその日その場所であったことをはがきに書いて寄越しているのだ。離れていても自分の居場所、何をしているのかを知らせるために。離れていてもいつも銀時のことを気にかけているのだと知らせるために。
最後に書かれたと思しきはがきには、帰る日の予定と土産を楽しみにしていてくれとあった。帰る日までまだ二週間もある。
「いつもはいいンだよ。いつもは。今までだって一月二月いなかったことはあるんだからさ。でも時期が悪ィだろ時期が」
クリスマスや年末年始を一緒に過ごしたかったと言ったらおめェは笑うか? 今更何を言うかと笑うか? おまえがいない日々を俺は何年も過ごしたぞと言って笑うか?
「わーってるよ。おめェが江戸にいねェのは俺への意趣返しじゃねェッてのは。でももしかしてそうなのかなって気にしちまうじゃねェか」
もう黙っておめェの前からいなくなったりしないから。早く帰ってきて安心させてくれよヅラ。そんな風に気を揉んでたって知ったなら、仕方のないやつだと困ったように笑うのだろうけれど。どんな顔でも良いから見たいんだよ。
「早く帰ェッて来いよヅラ。明けましておめでとうも言えやしねェじゃねェか。帰ェッて来るころには明けましても暮れましてもなくなってンじゃねェか」
こんなにも深く彼は自分の心に根ざしている。彼がいないせいで心が揺れている。それは自分が彼に与えた喪失よりもずっと軽いもののはずなのに。彼は戻ってくるとわかっているのに、胸のざわめきが取れない。
新年からちょっと暗い話になってしまいました。銀ちゃんはきなきなお悩み中。でもヅラはケロっとした顔で土産を持って万事屋に来るんですよ。
銀時は手に持ったはがきを見て溜息をついた。数えれば七枚。差出人は全て同じ。桂からの物だ。
「なんなのコレ? なんで七枚も送ってくるワケ? それもみんな年賀状ってどういうコト?」
七枚のはがきには全て『明けましておめでとうございます』と書かれている。すべて銀時宛に。
「七枚も年賀状送ってくる暇があるんなら会いに来いや。ったく空気読めねェ電波バカが」
悪態はついてもそこは連れ合いからの年賀状。無下に扱う事もできずに既に眺めつくしたはがきをもう一度一枚目から見る。明けましておめでとうに続く文言ははがきによって少しずつ違う。はがきも年賀葉書だったり絵はがきだったりしている。桂がはがきを書いた場所が都度都度違うからだ。
桂は今江戸にいない。十二月の半ばからずっといない。地方の攘夷党の支部を回っているのだ。帰ってくるのは一月半ばと聞いている。長く江戸を離れる時は桂は必ず銀時にそれを言い置いていく。行方不明になったのではないかといらぬ心配をさせないために。だから今回もいつものように桂は律儀に万事屋を訪ねて年末年始にいないことを告げていった。銀時もいつものように「あっそう」と言って桂を見送った。攘夷のことは我関せずなので素っ気無く実に素っ気無く。しかし桂が本当に江戸を旅立ってから、どうして止めなかったのかと猛烈に後悔した。だって十二月の半ばからは行事が目白押しではないか。クリスマスだって大晦日だって新年だってやってくる。それをそれらの全てを桂無しで過ごせというのか。そう思ったらいてもたってもいられなくなって、桂の家に押し掛けてみたが既に桂は江戸を出た後だった。
別にクリスマスだからはしゃぐ訳ではない。大晦日だって新年だって神楽と新八と過ごせば良い訳で。桂がいなくたって日々は過ぎていく。でも江戸で再会してからクリスマスも大晦日もなんやかんやと一緒に過ごしていた。新年だって必ず挨拶に来てくれた。それが通例になっていたから、桂無しの年末年始を過ごすことになるなんて思わなかった。それがこんなに寂しいとは思わなかった。
「ったくよォ。こんなはがきで誤魔化そうったってそうはいかねェよ。だいたいなんだよこのはがき。年賀状っつかアイツの旅日記じゃねェか。っつか七枚も書くなら手紙にしろよ」
桂は地方を転々としているらしく、違う場所の絵はがきが三枚ある。そしてはがきにもその場所の特色なんかがしたためてあって、年賀状というよりも旅の報告のようだ。
「こんなの七枚じゃなくってよ。おめェが一人来てくれればそれでいいのによ」
桂が七枚も年賀状を送ってきた理由はわかっている。自分の不在の埋め合わせをしているのだ。だから日記のようにその日その場所であったことをはがきに書いて寄越しているのだ。離れていても自分の居場所、何をしているのかを知らせるために。離れていてもいつも銀時のことを気にかけているのだと知らせるために。
最後に書かれたと思しきはがきには、帰る日の予定と土産を楽しみにしていてくれとあった。帰る日までまだ二週間もある。
「いつもはいいンだよ。いつもは。今までだって一月二月いなかったことはあるんだからさ。でも時期が悪ィだろ時期が」
クリスマスや年末年始を一緒に過ごしたかったと言ったらおめェは笑うか? 今更何を言うかと笑うか? おまえがいない日々を俺は何年も過ごしたぞと言って笑うか?
「わーってるよ。おめェが江戸にいねェのは俺への意趣返しじゃねェッてのは。でももしかしてそうなのかなって気にしちまうじゃねェか」
もう黙っておめェの前からいなくなったりしないから。早く帰ってきて安心させてくれよヅラ。そんな風に気を揉んでたって知ったなら、仕方のないやつだと困ったように笑うのだろうけれど。どんな顔でも良いから見たいんだよ。
「早く帰ェッて来いよヅラ。明けましておめでとうも言えやしねェじゃねェか。帰ェッて来るころには明けましても暮れましてもなくなってンじゃねェか」
こんなにも深く彼は自分の心に根ざしている。彼がいないせいで心が揺れている。それは自分が彼に与えた喪失よりもずっと軽いもののはずなのに。彼は戻ってくるとわかっているのに、胸のざわめきが取れない。
新年からちょっと暗い話になってしまいました。銀ちゃんはきなきなお悩み中。でもヅラはケロっとした顔で土産を持って万事屋に来るんですよ。
ぷちきゃらランドautumn&winter?が発売されまして、私も銀ちゃんとヅラを単品買いしました。お値段は少々張りましたが。
ミイラ男銀ちゃんの足元にはマーブルチョコレート、サンタコスヅラはほっぺにケーキのクリームが点々とついていて、両方とも撫で撫でしたいくらい可愛いです。
GEMヅラといいぷちきゃらといい、フィギュア好きの心をくすぐる商品が続々と発売。12月にはまた小さいフィギュアが出るんですよね。ヅラもラインアップされてるからまた買うことになりそうです。
ということでぷちきゃらランドから小噺です。続きへどうぞ。
ミイラ男銀ちゃんの足元にはマーブルチョコレート、サンタコスヅラはほっぺにケーキのクリームが点々とついていて、両方とも撫で撫でしたいくらい可愛いです。
GEMヅラといいぷちきゃらといい、フィギュア好きの心をくすぐる商品が続々と発売。12月にはまた小さいフィギュアが出るんですよね。ヅラもラインアップされてるからまた買うことになりそうです。
ということでぷちきゃらランドから小噺です。続きへどうぞ。
「オーイ。神楽よォ。ホントに行くのかよ? 仮装大会」
「銀ちゃん。ナニ言ってるネ。仮装大会じゃなくてハロウィンパーティーネ」
「だァかァらァ。そのハロウィン祭りってのに行くために仮装するンだろ?」
「そうアル。ハロウィンはオバケの格好をして歩くアル。クリスマスと並んで子供にとっては楽しいイベントネ」
「ガキにとってはだろ」
はあ~ぁと銀時は溜息をついた。
商店街の親父連中がまた何か思いついたらしく、今年は商店街でハロウィンの仮装大会をすることになった。オバケの格好をしてくれば、商品が二割引きになった上にお菓子のおまけがついてくる。商店街を活気付かせようという親父達の魂胆だ。
「もともとハロウィンはガキの祭りだろ? だったらおめェと新八で行ってくればいいじゃん」
「でも私お金持ってないモン。ほしい物があったら銀ちゃんに買ってもらわなくちゃならないアル」
俺は財布かとまた溜息。
「イイからイイから。早くミイラ男のコスをするヨロシ。包帯ぐるぐる巻くだけだから簡単アルヨ」
へいへいと返事をして渡された包帯を頭から顔から体にぐるぐる巻きつけた。
「おめェはナンなワケ?」
せっせと仮装の準備をしている神楽に声をかけた。
「見てわからないアルか? 魔女よ。ほら黒いワンピースに黒い帽子。髪飾りも今日は黒ネ。どっからどう見てもカワイイ魔女よ」
そう思うデショ銀ちゃんと聞かれて、銀時は面倒くさそうにはいはいと返事をした。でも手に酢昆布持ってるのはどういうことだ。菓子貰いに行く前に菓子をもってるなんて。それを指摘すると、酢昆布は魔女の重要な持ち物ネと返された。これが魔法の杖ネおまえを鼠に変えてやろうか~とノリノリな神楽。わかったわかったと軽くいなして包帯巻きにいそしむ。
「こんなモンでいいかァ?」
包帯を巻きつけた銀時が神楽に聞く。
「うん。巻き具合はそんなモンでいいアルよ。ミイラ男的な感じがするアル。元々目もどんよりしてるからオバケに見えるし。だけど迫力が今一つアルな」
元々目もどんよりってどーいうことだと文句を言う傍で、うーんと考えた神楽はパンと手を打った。
「血ィアルよ。口から血を流せば完璧ネ」
事務机の上のペン立てから赤いマジックを持ってくるとキャップを取った。
「オイオイ。カンベンしてくれよ。ンなモン顔に書くのかよ」
「そうアル。万事屋はリアリティーを追求するネ。コレを書かなきゃ銀ちゃんは完璧なミイラ男になれないネ」
「やだよ。それ油性ペンじゃねェか」
洗えば落ちるからと説き伏せられて、銀時はしぶしぶ神楽に従った。口の左端から血が垂れているように赤いマジックで線を書く。
「イイアル。とってもイイ感じアル。かぶき町一のミイラ男ネ」
銀時は洗面所に行って自分の顔を見た。確かにリアリティーは追求できたようだ。
「俺がミイラ男、おめェが魔女。ンで新八はなんだ?」
そう言うとざっと和室の襖が開いた。
「神楽ちゃん。コレなんだよ。なんで僕だけ全身白タイツなんだよ。コレどういうオバケなんだよ」
「わからないアルか? とろいヤツアルなおまえは。だから新一じゃなくて新八言われるネ。おまえはふきでものアル」
「またかいィィィィッッッ!!!」
さも当然と言われて新八は叫んだ。
「ふきでものはレディにとってとても恐い物ネ。恐い物はオバケアル。だからハロウィンアル」
あああなんで僕はまたふきでものなんだと項垂れる新八の肩を、銀時はぽんぽんと叩く。
「似合ってるよ新八君。おめェはふきでものそのものだ。おめェ以上にふきでものが似合うヤツはいるめェよ。かぶき町、いや、江戸一番のふきでものだ」
「そんな褒められ方したって嬉しくもなんともありません」
そろそろ行くかと、新八の抗議は無視して万事屋一行はハロウィンパーティーに出かけた。
「結構な人出ですねィ。江戸っ子は祭り好きなんですねェ」
獣の耳と尻尾をつけて狼男になった沖田が周りを見回しながら言う。その沖田は何故か首輪がついた鎖を持っている。
「ハロウィンは日本じゃ珍しいからな。珍しモン好きなヤツらが多いんだろうよ」
答えた土方はジャックオーランタンの仮装をしている。カボチャの蓋を帽子のように被り、恐い顔にくりぬいたカボチャをパンツのように履いている。
「珍しいモンといやァ土方さんもまた随分と珍妙な格好で。そのナリでストローでマヨネーズを啜っているんですから、オバケというより最早珍獣でさァ」
「っるっせーんだよてめェは。このアンバランスさが恐さを表現してンだよ。てめェこそなんだ。首輪なんか持ち歩きやがって。こんなとこにもサドっ気出さねェと気がすまねェのか」
「コイツァ俺の大切なアイテムでさァ。土方さんが迷子になりそうになったらこれでとっ捕まえようと思いやしてね」
「俺の為エェェェェ?」
真選組の土方と沖田もオバケの格好をして商店街を歩いてはいるが、彼らはパーティーに参加しているのではなく警邏をしているのだ。パーティーで事件や事故が起こらないようにと見回りの仕事中。でもせっかくの楽しいイベントにいつもの制服で歩き回っていたら、興がそがれるという近藤の発案でオバケコスをすることになった。他にもオバケの格好をした隊士が警邏をしている。
「あ。マヨとサドネ」
万事屋と真選組二人が遭遇した。ハロウィンコスをしている二人を見て、銀時はあからさまにおかしそうな顔をし、土方は会いたくないヤツらにあったと露骨に嫌な顔をした。
「お二人揃ってハロウィンパーティーに参加ですか。おまわりサンってのは暇でいいですねコノヤロー。この税金泥棒め」
「ちょっおまっ! 何言ってんだ。馬鹿な事言ってんじゃねェ」
銀時の嫌味に食ってかかる土方。
「俺達はパーティーに参加してるんじゃねェ。警邏してるんだよ。仕事中だ」
「ハアァ~? そんなナリでェ?」
疑わしそうな顔をする銀時を、まあまあ旦那俺達の立場もわかってくだせえよと沖田がとりなした。
「せっかくの華やかなイベントですぜィ。むさい隊服で見回りをしてたら無粋ってモンでさァ。だからハロウィンに溶け込めるオバケの格好をしてるんですよ」
「ふーん。じゃあゴリラもなんかのコスしてるワケ?」
「近藤さんはフランケンシュタインになってる」
土方がむすっと答えた。
「その格好のままスナックすまいるに行っちまいましたがね。今頃姉さんたちに袋叩きに合ってるんじゃねェですかィ?」
「やっぱ。遊んでるんじゃねーか」
近藤も相変わらず懲りないヤツだと思った。
「チャイナは魔女コスかィ。似合ってるじゃねーか。いつもの倍増しでガキに見えらァ」
「なにを~。おまえこそ耳と尻尾生やして萌え~とか思ってンじゃないだろな」
いつの間にか神楽と沖田がバチバチと火花を散らしていた。
「おめェはミイラ男か。あんまり工夫がねェな。ただ包帯巻きつけただけじゃねえか。安直だな」
「ナニ言っちゃってくれてンのかな大串君は。この口を見てみなさい。血が垂れてるよ。血だよコレ。コレがチャームポイントだよ」
なーにがチャームポイントだバカがそれに俺は大串じゃねェと言い返す。
「それでメガネのコスはと…」
自分に話が振られたので新八はささっと銀時の後に隠れた。全身白タイツなんて恥ずかしくて見られたくない。
「メガネはふきでものだな」
「エエエエエッッッッッ!!!」
言い当てられた新八が驚く。
「じゃあな。俺達は忙しいんだ。てめェらに構ってる暇はねェ。行くぞ総悟」
土方は歩き出し沖田もへいへいと返事をして後に続く。
「なんで僕がふきでものだってわかったんだろう?」
二人を見送りながら新八がぽつり。
「そりゃあ誰が見たって新八君はふきでものだってわかるよ。立派なふきでものだよ」
「立派なふきでものってなんだアァァァァァァァ」
新八の叫び声が商店街に響いた。
「真選組の皆さんまでハロウィンコスしてるなんて。でも土方さんと沖田さんは本質は変わってなかったですね」
気を取り直して言う新八。マヨはマヨネーズを、サドは首輪つきの鎖を持ち歩いていた。
「ついでに言えばゴリラもな。アイツならコスしなくてもまんまフランケンシュタインでいいんじゃねーか?」
スナックすまいるでの惨状を思い描いて新八は力なく笑った。
それから三人は商店を冷やかし神楽は駄菓子屋で酢昆布を買って、新八は文房具屋で便箋と筆を買い、銀時は和菓子屋で饅頭を買った。ハロウィン企画ということで代金は通常の二割引き。そして必ずおまけに菓子がついてきた。飴だったりチョコだったりと小さな菓子だがなんとなく嬉しい。八百屋ではかぼちゃの大安売りをしていたので二個買って、おまけにかぼちゃ饅頭を人数分もらって、そろそろ帰ろうかというころだった。
大江戸銭湯の周りに人だかりができていた。早速神楽が興味を示してそちらに走っていく。銀ちゃんも速くとひきずられて銭湯の前に来た。みんな何をしているかと思えば上を向いている。
「なんだあ?」
なんと銭湯の屋根の上の煙突に人がしがみついていた。人々は口々に危ないとか落ちたら大変だとか泥棒じゃないか警察を呼んだ方が良いんじゃないかと言っている。
銀時が目を凝らしてよーく見ると、赤い帽子を被って赤い上下の服を着て白い袋を担いだ人物がよじよじと煙突を登っていく。しかも片手に何か持っているらしくいかにも登りにくそうで、落ちるんじゃないかとこっちがはらはらする。
「なんでしょう? 銀さん。あの人何やってるんでしょう」
「俺に聞かれたってわかんねーよ。ハロウィンに浮かれたバカがバカなことやってンじゃねェの?」
そこで煙突を登っている人物がバランスを崩した。ぐらりと体が揺れて人々から悲鳴が上がる。バランスを崩したせいで顔が下を向いた。
「あ、あれ? あれってもしかして…」
「ヅラアル。ヅラが煙突に登ってるアル」
「あのバカ。ナニやってンだ…」
銀時は頭を抱えた。
どうにか体勢を整えた桂がまた煙突を登り始めた。もうこれ以上放っておけないと思った銀時は大声を出した。
「オーイ。バカヅラ。てめェンなとこでナニやってンだ?」
桂が下を向いた。群れている人の中に銀時を見止めて言い返す。
「おお。おまえは銀時か。ミイラ男かと思ったぞ。というかバカヅラじゃない。とりっくおあとりーとだ」
「ハイィィ? バカがなにバカな事言ってンだ。いいから降りて来い。不法侵入でとっ捕まるぞ」
「いいや。それは聞けぬ。俺はこの菓子を子供に届ける義務があるのだ」
そう言うとまた煙突を登り出す。
「銀ちゃん。ヅラのコスってなんだかサンタクロースみたい。ハロウィンとクリスマスを間違ってるんじゃないアルか?」
そう言えば赤い帽子に赤い上下の服白い袋はサンタクロースの定番の格好だ。
「あのバカどこまでバカなんだ」
新八かぼちゃ貸せと言ってかぼちゃを一個受け取った。そして狙いを定めてぶん投げた。かぼちゃは見事に桂の赤い帽子をかぶった頭に当たり、ぐらっと体が傾いた。そのままひゅーっと落ちてくる。見ていた人々が悲鳴を上げた。銀時は脱兎のごとく走り場所を移動すると身構えた。落ちてきた桂をがっと腕で抱えた。
「ふェー。ナイスタイミング。俺ってナニをやらせても上手ェよな」
上手く桂をキャッチできた銀時はほうと溜息をついた。
「オイ。バカヅラ。起きろ。気ィ失った振りしてンじゃねェ。わかってンだぞ」
声をかけるとばれたかと言って桂が目を開けた。
「ヅラァ。だいじょぶアルか? かぼちゃで頭おかしくなってないアルか? いやいやおまえの頭は既におかしかったアル」
「何をやってたんですか桂さん。銭湯の煙突をそんな格好で登るなんて正気の沙汰じゃありませんよ」
神楽と新八も口々に言う。
「さーってっと。ヅラ君ヅラ君。ナニをやってたのか説明してもらいましょうかね」
自分で立てと桂を放り出した銀時が腰に腕を当てて仁王立ちになった。ヅラじゃない桂だと言いながらも罰の悪そうな顔をする。
「わかった。わかった。おまえたちに心配をかけてしまったのだな。それは謝る。だからそんなに恐い顔をするな」
桂はぼそぼそと言った。
「こんな時にオモシロイ顔するヤツなんていねェよバカヤロー。下手すると本当に警察にしょっ引かれるかもしれなかったンだぞ。ンで季節外れのサンタでナニやってたんだよ」
それを聞いて桂が目をぱちぱちさせた。
「ハロウィンパーティーに参加していたのだぞ。サンタクロースのコスプレをするのは当たり前ではないか」
ああ~と銀時は額に手をやった。やっぱりこいつはハロウィンの意味を間違えている。
「あのなあ。ヅラ。ハロウィンてのはクリスマスじゃねェンだからサンタコスはしねェんだよ。ハロウィンにするのはオバケの格好だ」
「な、なんと…?」
「ナンデスカ? その絵に書いたようなガーンって顔は」
「そんな…。そんな…。サンタクロースはハロウィンには関係なかったとは…。全く知らなんだ」
ヅラ誰でも間違いはあるアルよ。そうですよ桂さん。ちょっと早いサンタクロースだっただけですよ。と神楽と新八が慰めている。
「つーかさつーかさ。手に持ってる箱ってナニ? もしかしてクリスマス的なアレ?」
「中身はケーキだ。クリスマスには定番の物だ」
「っておめェケーキつまみ食いしただろ。なんだよ顔についてるこの白いのは?」
そう言って桂の頬に点々とついている白いクリーム状の物を指で擦ってそれをぺろりと舐めた。
「やっぱ甘ェ。ケーキのクリームだな。プレゼントしようと思ってたケーキをつまみ食いするたァてめェどういう了見だ」
「心外なことを言う。俺がつまみ食いなどするか。これはさっきバランスを崩したときに、ケーキの箱が開いてその中に顔を突っ込んでしまったのだ」
桂の顔についているクリームをさも当然のように舐めた銀時を見て、子供たちが引いているのも構わず二人は言い合いを続けている。
「ケーキ見せてみろ」
桂がずっと片手に乗せている箱を引っ手繰った。箱を開けて見ると案の定ケーキは潰れていた。
「こんなのプレゼントするつもりだったのかよ。こんな潰れたヤツを?」
「ううむ。菓子屋で買った時には綺麗な形をしていたのだがな。やはりさっき顔を突っ込んだのが良くなかった」
「やはりじゃねーだろ。顔突っ込んだから潰れたんだろ。当たり前のことなに今更言ってンだよ」
言い合う大人二人に新八と神楽は首を振った。もう帰ろう神楽ちゃん。そうアルな。コイツらはここに置いとくヨロシ。魔女とふきでものは二人を置いて、いろいろもらった菓子をぶらさげながら万事屋へ帰って行った。
「だいたいなあ。ハロウィンは子供が家々を回って菓子をもらうイベントだ。サンタがケーキをプレゼントするんじゃねーんだよ」
「菓子をやるのは同じではないか」
「ちげーッたらちげーッッッ!! ハロウィンとクリスマスは別物だからね。全然違う物だからね。なんでそれがわかんねェんだよバカヅラ」
「バカヅラじゃない。桂だ。というか今はサンタクロースだ。邪魔をするな銀時。俺はこのケーキをあの煙突の下で待っている子供に届けなければならないのだ」
言うが早いか桂はさっさと歩き出す。
「ちょォッとまったァッッッ!!」
銀時は襟を後ろからつかんで引きとめた。
「なっなにをする銀時…。苦しいではないか…」
襟を引っ張られて首がしまった桂が途切れ途切れに文句を言う。
「あんなあヅラよォ。煙突の下にはケーキを待ってる子供なんていないぜ。煙突の下にあるのはボイラー室だ」
桂が目を瞠る。
「だから言っただろ。クリスマスでサンタなのはまだ二ヶ月先。今日はハロウィンなの。オバケのカッコをして菓子をもらって回る日なの」
「そうなのか…。おまえがそこまで言うのだからそうなのだな…」
しょんぼりと項垂れる桂。
「そんなにガックリするなよヅラ。今から俺ンち行こうぜ。そのケーキ俺にくれよ。俺に食わせてよ」
「俺の顔が突っ込んだケーキだぞ。それでも平気なのか?」
半分不恰好に潰れているが、苺も生クリームも乗っている。この際ケーキが食えるならなんでも良い。それに桂の顔が触れたくらい今更どうってこともない。
「へーきへーき。銀サンはそんなこと気にするようなちっさな男じゃありませんよー」
小首を傾げて考えていた桂がぽつりと言った。
「要するにケーキが食えればなんでも良いということだな」
「ちょっおまっ。なんてこと言うワケ? 行き場所のなくなったケーキが勿体無いから俺が食ってやろうって言ってるのに」
「まあ。そういうことにしておいてやろう」
「ナニ? そのわかってますよ的な言い方。だいたいおめェなんで大江戸銭湯の煙突登ってたんだよ」
「サンタクロースは煙突からやってくるであろう。したがかぶき町には煙突のある家がなくてな。見つけたのが大江戸銭湯の煙突だったのだ」
「バッカじゃねェのてめェ。ホントにバッカじゃねェの。そうだてめェかぼちゃ返せ」
「馬鹿は貴様だ。俺はかぼちゃなど盗っておらん」
二人はいまだに言い合いをしていた。
かぶき町一番街の入り口に二つの人影があった。
「へええ~。本当にオバケの格好をしてるんだね。ハロウィンてのは変わったお祭りだ」
「地球人ってのは酔狂なことが好きなんだよ」
神楽の兄の神威とその腹心、阿伏兎だ。二人とも吸血鬼のコスチュームを着ていた。阿伏兎に至っては棺桶を引きずっている。
「楽しそうでいいじゃない。話を聞いて駆けつけて良かった。こんなおもしろそうな祭りに出会えるなんて」
神威は嬉しそうに言った。
「オイオイ。変なこと考えてんじゃねェだろうなこのすっとこどっこい。ここで暴れるなよ。喧嘩売るなよ。ンなことしたら上の連中の耳に入ってまためんどくせーことになるからな」
「嫌だな~。心配性なんだから阿伏兎は。俺がそんなことするはずないじゃない。お祭りをぶち壊すようなことはしないよ。第一ここにはお忍びで来てるんだから。仕事じゃないんだから」
「お忍びで来てるんだから余計に余計なことをするんじゃねェってこった」
「はいはい。わかってるよ副団長」
物分り良く答えた神威の目に妖しい光が宿っているのを見逃さなかった。
「とにかく大人しくしててくれよ団長」
「何度も言わなくてもわかってる。何もしないよ」
狼男やフランケンシュタイン、ドラキュラや魔女、ミイラ男やゾンビの格好をして闊歩する人々を眺めた。目の所に穴を開けた敷布をかぶった子供がはしゃいでいる。それらを物珍しげに見やる神威。
「やっぱりおもしろいね。侍の星って」
きゅうっと神威の唇が吊りあがる。
「おもしろいっつーかやっぱ酔狂なんじゃねえか? 夜兎にはこんなモンないからな」
二人は人ごみに紛れて歩き出した。
宵の口のかぶき町は人々で溢れますます賑わっていた。
実際のフィギュアと少々変えてあります。ラインアップされていない人も出ていますので悪しからず。
「銀ちゃん。ナニ言ってるネ。仮装大会じゃなくてハロウィンパーティーネ」
「だァかァらァ。そのハロウィン祭りってのに行くために仮装するンだろ?」
「そうアル。ハロウィンはオバケの格好をして歩くアル。クリスマスと並んで子供にとっては楽しいイベントネ」
「ガキにとってはだろ」
はあ~ぁと銀時は溜息をついた。
商店街の親父連中がまた何か思いついたらしく、今年は商店街でハロウィンの仮装大会をすることになった。オバケの格好をしてくれば、商品が二割引きになった上にお菓子のおまけがついてくる。商店街を活気付かせようという親父達の魂胆だ。
「もともとハロウィンはガキの祭りだろ? だったらおめェと新八で行ってくればいいじゃん」
「でも私お金持ってないモン。ほしい物があったら銀ちゃんに買ってもらわなくちゃならないアル」
俺は財布かとまた溜息。
「イイからイイから。早くミイラ男のコスをするヨロシ。包帯ぐるぐる巻くだけだから簡単アルヨ」
へいへいと返事をして渡された包帯を頭から顔から体にぐるぐる巻きつけた。
「おめェはナンなワケ?」
せっせと仮装の準備をしている神楽に声をかけた。
「見てわからないアルか? 魔女よ。ほら黒いワンピースに黒い帽子。髪飾りも今日は黒ネ。どっからどう見てもカワイイ魔女よ」
そう思うデショ銀ちゃんと聞かれて、銀時は面倒くさそうにはいはいと返事をした。でも手に酢昆布持ってるのはどういうことだ。菓子貰いに行く前に菓子をもってるなんて。それを指摘すると、酢昆布は魔女の重要な持ち物ネと返された。これが魔法の杖ネおまえを鼠に変えてやろうか~とノリノリな神楽。わかったわかったと軽くいなして包帯巻きにいそしむ。
「こんなモンでいいかァ?」
包帯を巻きつけた銀時が神楽に聞く。
「うん。巻き具合はそんなモンでいいアルよ。ミイラ男的な感じがするアル。元々目もどんよりしてるからオバケに見えるし。だけど迫力が今一つアルな」
元々目もどんよりってどーいうことだと文句を言う傍で、うーんと考えた神楽はパンと手を打った。
「血ィアルよ。口から血を流せば完璧ネ」
事務机の上のペン立てから赤いマジックを持ってくるとキャップを取った。
「オイオイ。カンベンしてくれよ。ンなモン顔に書くのかよ」
「そうアル。万事屋はリアリティーを追求するネ。コレを書かなきゃ銀ちゃんは完璧なミイラ男になれないネ」
「やだよ。それ油性ペンじゃねェか」
洗えば落ちるからと説き伏せられて、銀時はしぶしぶ神楽に従った。口の左端から血が垂れているように赤いマジックで線を書く。
「イイアル。とってもイイ感じアル。かぶき町一のミイラ男ネ」
銀時は洗面所に行って自分の顔を見た。確かにリアリティーは追求できたようだ。
「俺がミイラ男、おめェが魔女。ンで新八はなんだ?」
そう言うとざっと和室の襖が開いた。
「神楽ちゃん。コレなんだよ。なんで僕だけ全身白タイツなんだよ。コレどういうオバケなんだよ」
「わからないアルか? とろいヤツアルなおまえは。だから新一じゃなくて新八言われるネ。おまえはふきでものアル」
「またかいィィィィッッッ!!!」
さも当然と言われて新八は叫んだ。
「ふきでものはレディにとってとても恐い物ネ。恐い物はオバケアル。だからハロウィンアル」
あああなんで僕はまたふきでものなんだと項垂れる新八の肩を、銀時はぽんぽんと叩く。
「似合ってるよ新八君。おめェはふきでものそのものだ。おめェ以上にふきでものが似合うヤツはいるめェよ。かぶき町、いや、江戸一番のふきでものだ」
「そんな褒められ方したって嬉しくもなんともありません」
そろそろ行くかと、新八の抗議は無視して万事屋一行はハロウィンパーティーに出かけた。
「結構な人出ですねィ。江戸っ子は祭り好きなんですねェ」
獣の耳と尻尾をつけて狼男になった沖田が周りを見回しながら言う。その沖田は何故か首輪がついた鎖を持っている。
「ハロウィンは日本じゃ珍しいからな。珍しモン好きなヤツらが多いんだろうよ」
答えた土方はジャックオーランタンの仮装をしている。カボチャの蓋を帽子のように被り、恐い顔にくりぬいたカボチャをパンツのように履いている。
「珍しいモンといやァ土方さんもまた随分と珍妙な格好で。そのナリでストローでマヨネーズを啜っているんですから、オバケというより最早珍獣でさァ」
「っるっせーんだよてめェは。このアンバランスさが恐さを表現してンだよ。てめェこそなんだ。首輪なんか持ち歩きやがって。こんなとこにもサドっ気出さねェと気がすまねェのか」
「コイツァ俺の大切なアイテムでさァ。土方さんが迷子になりそうになったらこれでとっ捕まえようと思いやしてね」
「俺の為エェェェェ?」
真選組の土方と沖田もオバケの格好をして商店街を歩いてはいるが、彼らはパーティーに参加しているのではなく警邏をしているのだ。パーティーで事件や事故が起こらないようにと見回りの仕事中。でもせっかくの楽しいイベントにいつもの制服で歩き回っていたら、興がそがれるという近藤の発案でオバケコスをすることになった。他にもオバケの格好をした隊士が警邏をしている。
「あ。マヨとサドネ」
万事屋と真選組二人が遭遇した。ハロウィンコスをしている二人を見て、銀時はあからさまにおかしそうな顔をし、土方は会いたくないヤツらにあったと露骨に嫌な顔をした。
「お二人揃ってハロウィンパーティーに参加ですか。おまわりサンってのは暇でいいですねコノヤロー。この税金泥棒め」
「ちょっおまっ! 何言ってんだ。馬鹿な事言ってんじゃねェ」
銀時の嫌味に食ってかかる土方。
「俺達はパーティーに参加してるんじゃねェ。警邏してるんだよ。仕事中だ」
「ハアァ~? そんなナリでェ?」
疑わしそうな顔をする銀時を、まあまあ旦那俺達の立場もわかってくだせえよと沖田がとりなした。
「せっかくの華やかなイベントですぜィ。むさい隊服で見回りをしてたら無粋ってモンでさァ。だからハロウィンに溶け込めるオバケの格好をしてるんですよ」
「ふーん。じゃあゴリラもなんかのコスしてるワケ?」
「近藤さんはフランケンシュタインになってる」
土方がむすっと答えた。
「その格好のままスナックすまいるに行っちまいましたがね。今頃姉さんたちに袋叩きに合ってるんじゃねェですかィ?」
「やっぱ。遊んでるんじゃねーか」
近藤も相変わらず懲りないヤツだと思った。
「チャイナは魔女コスかィ。似合ってるじゃねーか。いつもの倍増しでガキに見えらァ」
「なにを~。おまえこそ耳と尻尾生やして萌え~とか思ってンじゃないだろな」
いつの間にか神楽と沖田がバチバチと火花を散らしていた。
「おめェはミイラ男か。あんまり工夫がねェな。ただ包帯巻きつけただけじゃねえか。安直だな」
「ナニ言っちゃってくれてンのかな大串君は。この口を見てみなさい。血が垂れてるよ。血だよコレ。コレがチャームポイントだよ」
なーにがチャームポイントだバカがそれに俺は大串じゃねェと言い返す。
「それでメガネのコスはと…」
自分に話が振られたので新八はささっと銀時の後に隠れた。全身白タイツなんて恥ずかしくて見られたくない。
「メガネはふきでものだな」
「エエエエエッッッッッ!!!」
言い当てられた新八が驚く。
「じゃあな。俺達は忙しいんだ。てめェらに構ってる暇はねェ。行くぞ総悟」
土方は歩き出し沖田もへいへいと返事をして後に続く。
「なんで僕がふきでものだってわかったんだろう?」
二人を見送りながら新八がぽつり。
「そりゃあ誰が見たって新八君はふきでものだってわかるよ。立派なふきでものだよ」
「立派なふきでものってなんだアァァァァァァァ」
新八の叫び声が商店街に響いた。
「真選組の皆さんまでハロウィンコスしてるなんて。でも土方さんと沖田さんは本質は変わってなかったですね」
気を取り直して言う新八。マヨはマヨネーズを、サドは首輪つきの鎖を持ち歩いていた。
「ついでに言えばゴリラもな。アイツならコスしなくてもまんまフランケンシュタインでいいんじゃねーか?」
スナックすまいるでの惨状を思い描いて新八は力なく笑った。
それから三人は商店を冷やかし神楽は駄菓子屋で酢昆布を買って、新八は文房具屋で便箋と筆を買い、銀時は和菓子屋で饅頭を買った。ハロウィン企画ということで代金は通常の二割引き。そして必ずおまけに菓子がついてきた。飴だったりチョコだったりと小さな菓子だがなんとなく嬉しい。八百屋ではかぼちゃの大安売りをしていたので二個買って、おまけにかぼちゃ饅頭を人数分もらって、そろそろ帰ろうかというころだった。
大江戸銭湯の周りに人だかりができていた。早速神楽が興味を示してそちらに走っていく。銀ちゃんも速くとひきずられて銭湯の前に来た。みんな何をしているかと思えば上を向いている。
「なんだあ?」
なんと銭湯の屋根の上の煙突に人がしがみついていた。人々は口々に危ないとか落ちたら大変だとか泥棒じゃないか警察を呼んだ方が良いんじゃないかと言っている。
銀時が目を凝らしてよーく見ると、赤い帽子を被って赤い上下の服を着て白い袋を担いだ人物がよじよじと煙突を登っていく。しかも片手に何か持っているらしくいかにも登りにくそうで、落ちるんじゃないかとこっちがはらはらする。
「なんでしょう? 銀さん。あの人何やってるんでしょう」
「俺に聞かれたってわかんねーよ。ハロウィンに浮かれたバカがバカなことやってンじゃねェの?」
そこで煙突を登っている人物がバランスを崩した。ぐらりと体が揺れて人々から悲鳴が上がる。バランスを崩したせいで顔が下を向いた。
「あ、あれ? あれってもしかして…」
「ヅラアル。ヅラが煙突に登ってるアル」
「あのバカ。ナニやってンだ…」
銀時は頭を抱えた。
どうにか体勢を整えた桂がまた煙突を登り始めた。もうこれ以上放っておけないと思った銀時は大声を出した。
「オーイ。バカヅラ。てめェンなとこでナニやってンだ?」
桂が下を向いた。群れている人の中に銀時を見止めて言い返す。
「おお。おまえは銀時か。ミイラ男かと思ったぞ。というかバカヅラじゃない。とりっくおあとりーとだ」
「ハイィィ? バカがなにバカな事言ってンだ。いいから降りて来い。不法侵入でとっ捕まるぞ」
「いいや。それは聞けぬ。俺はこの菓子を子供に届ける義務があるのだ」
そう言うとまた煙突を登り出す。
「銀ちゃん。ヅラのコスってなんだかサンタクロースみたい。ハロウィンとクリスマスを間違ってるんじゃないアルか?」
そう言えば赤い帽子に赤い上下の服白い袋はサンタクロースの定番の格好だ。
「あのバカどこまでバカなんだ」
新八かぼちゃ貸せと言ってかぼちゃを一個受け取った。そして狙いを定めてぶん投げた。かぼちゃは見事に桂の赤い帽子をかぶった頭に当たり、ぐらっと体が傾いた。そのままひゅーっと落ちてくる。見ていた人々が悲鳴を上げた。銀時は脱兎のごとく走り場所を移動すると身構えた。落ちてきた桂をがっと腕で抱えた。
「ふェー。ナイスタイミング。俺ってナニをやらせても上手ェよな」
上手く桂をキャッチできた銀時はほうと溜息をついた。
「オイ。バカヅラ。起きろ。気ィ失った振りしてンじゃねェ。わかってンだぞ」
声をかけるとばれたかと言って桂が目を開けた。
「ヅラァ。だいじょぶアルか? かぼちゃで頭おかしくなってないアルか? いやいやおまえの頭は既におかしかったアル」
「何をやってたんですか桂さん。銭湯の煙突をそんな格好で登るなんて正気の沙汰じゃありませんよ」
神楽と新八も口々に言う。
「さーってっと。ヅラ君ヅラ君。ナニをやってたのか説明してもらいましょうかね」
自分で立てと桂を放り出した銀時が腰に腕を当てて仁王立ちになった。ヅラじゃない桂だと言いながらも罰の悪そうな顔をする。
「わかった。わかった。おまえたちに心配をかけてしまったのだな。それは謝る。だからそんなに恐い顔をするな」
桂はぼそぼそと言った。
「こんな時にオモシロイ顔するヤツなんていねェよバカヤロー。下手すると本当に警察にしょっ引かれるかもしれなかったンだぞ。ンで季節外れのサンタでナニやってたんだよ」
それを聞いて桂が目をぱちぱちさせた。
「ハロウィンパーティーに参加していたのだぞ。サンタクロースのコスプレをするのは当たり前ではないか」
ああ~と銀時は額に手をやった。やっぱりこいつはハロウィンの意味を間違えている。
「あのなあ。ヅラ。ハロウィンてのはクリスマスじゃねェンだからサンタコスはしねェんだよ。ハロウィンにするのはオバケの格好だ」
「な、なんと…?」
「ナンデスカ? その絵に書いたようなガーンって顔は」
「そんな…。そんな…。サンタクロースはハロウィンには関係なかったとは…。全く知らなんだ」
ヅラ誰でも間違いはあるアルよ。そうですよ桂さん。ちょっと早いサンタクロースだっただけですよ。と神楽と新八が慰めている。
「つーかさつーかさ。手に持ってる箱ってナニ? もしかしてクリスマス的なアレ?」
「中身はケーキだ。クリスマスには定番の物だ」
「っておめェケーキつまみ食いしただろ。なんだよ顔についてるこの白いのは?」
そう言って桂の頬に点々とついている白いクリーム状の物を指で擦ってそれをぺろりと舐めた。
「やっぱ甘ェ。ケーキのクリームだな。プレゼントしようと思ってたケーキをつまみ食いするたァてめェどういう了見だ」
「心外なことを言う。俺がつまみ食いなどするか。これはさっきバランスを崩したときに、ケーキの箱が開いてその中に顔を突っ込んでしまったのだ」
桂の顔についているクリームをさも当然のように舐めた銀時を見て、子供たちが引いているのも構わず二人は言い合いを続けている。
「ケーキ見せてみろ」
桂がずっと片手に乗せている箱を引っ手繰った。箱を開けて見ると案の定ケーキは潰れていた。
「こんなのプレゼントするつもりだったのかよ。こんな潰れたヤツを?」
「ううむ。菓子屋で買った時には綺麗な形をしていたのだがな。やはりさっき顔を突っ込んだのが良くなかった」
「やはりじゃねーだろ。顔突っ込んだから潰れたんだろ。当たり前のことなに今更言ってンだよ」
言い合う大人二人に新八と神楽は首を振った。もう帰ろう神楽ちゃん。そうアルな。コイツらはここに置いとくヨロシ。魔女とふきでものは二人を置いて、いろいろもらった菓子をぶらさげながら万事屋へ帰って行った。
「だいたいなあ。ハロウィンは子供が家々を回って菓子をもらうイベントだ。サンタがケーキをプレゼントするんじゃねーんだよ」
「菓子をやるのは同じではないか」
「ちげーッたらちげーッッッ!! ハロウィンとクリスマスは別物だからね。全然違う物だからね。なんでそれがわかんねェんだよバカヅラ」
「バカヅラじゃない。桂だ。というか今はサンタクロースだ。邪魔をするな銀時。俺はこのケーキをあの煙突の下で待っている子供に届けなければならないのだ」
言うが早いか桂はさっさと歩き出す。
「ちょォッとまったァッッッ!!」
銀時は襟を後ろからつかんで引きとめた。
「なっなにをする銀時…。苦しいではないか…」
襟を引っ張られて首がしまった桂が途切れ途切れに文句を言う。
「あんなあヅラよォ。煙突の下にはケーキを待ってる子供なんていないぜ。煙突の下にあるのはボイラー室だ」
桂が目を瞠る。
「だから言っただろ。クリスマスでサンタなのはまだ二ヶ月先。今日はハロウィンなの。オバケのカッコをして菓子をもらって回る日なの」
「そうなのか…。おまえがそこまで言うのだからそうなのだな…」
しょんぼりと項垂れる桂。
「そんなにガックリするなよヅラ。今から俺ンち行こうぜ。そのケーキ俺にくれよ。俺に食わせてよ」
「俺の顔が突っ込んだケーキだぞ。それでも平気なのか?」
半分不恰好に潰れているが、苺も生クリームも乗っている。この際ケーキが食えるならなんでも良い。それに桂の顔が触れたくらい今更どうってこともない。
「へーきへーき。銀サンはそんなこと気にするようなちっさな男じゃありませんよー」
小首を傾げて考えていた桂がぽつりと言った。
「要するにケーキが食えればなんでも良いということだな」
「ちょっおまっ。なんてこと言うワケ? 行き場所のなくなったケーキが勿体無いから俺が食ってやろうって言ってるのに」
「まあ。そういうことにしておいてやろう」
「ナニ? そのわかってますよ的な言い方。だいたいおめェなんで大江戸銭湯の煙突登ってたんだよ」
「サンタクロースは煙突からやってくるであろう。したがかぶき町には煙突のある家がなくてな。見つけたのが大江戸銭湯の煙突だったのだ」
「バッカじゃねェのてめェ。ホントにバッカじゃねェの。そうだてめェかぼちゃ返せ」
「馬鹿は貴様だ。俺はかぼちゃなど盗っておらん」
二人はいまだに言い合いをしていた。
かぶき町一番街の入り口に二つの人影があった。
「へええ~。本当にオバケの格好をしてるんだね。ハロウィンてのは変わったお祭りだ」
「地球人ってのは酔狂なことが好きなんだよ」
神楽の兄の神威とその腹心、阿伏兎だ。二人とも吸血鬼のコスチュームを着ていた。阿伏兎に至っては棺桶を引きずっている。
「楽しそうでいいじゃない。話を聞いて駆けつけて良かった。こんなおもしろそうな祭りに出会えるなんて」
神威は嬉しそうに言った。
「オイオイ。変なこと考えてんじゃねェだろうなこのすっとこどっこい。ここで暴れるなよ。喧嘩売るなよ。ンなことしたら上の連中の耳に入ってまためんどくせーことになるからな」
「嫌だな~。心配性なんだから阿伏兎は。俺がそんなことするはずないじゃない。お祭りをぶち壊すようなことはしないよ。第一ここにはお忍びで来てるんだから。仕事じゃないんだから」
「お忍びで来てるんだから余計に余計なことをするんじゃねェってこった」
「はいはい。わかってるよ副団長」
物分り良く答えた神威の目に妖しい光が宿っているのを見逃さなかった。
「とにかく大人しくしててくれよ団長」
「何度も言わなくてもわかってる。何もしないよ」
狼男やフランケンシュタイン、ドラキュラや魔女、ミイラ男やゾンビの格好をして闊歩する人々を眺めた。目の所に穴を開けた敷布をかぶった子供がはしゃいでいる。それらを物珍しげに見やる神威。
「やっぱりおもしろいね。侍の星って」
きゅうっと神威の唇が吊りあがる。
「おもしろいっつーかやっぱ酔狂なんじゃねえか? 夜兎にはこんなモンないからな」
二人は人ごみに紛れて歩き出した。
宵の口のかぶき町は人々で溢れますます賑わっていた。
実際のフィギュアと少々変えてあります。ラインアップされていない人も出ていますので悪しからず。
久しぶりの小噺です。エヅラ子さんのクリンクリンに触発されて書きました。続きからどうぞ。
からくり堂では今日もガシャコンガシャコンと賑やかな音がする。その前に立った桂は声を張り上げた。
「源外殿。桂ですがお邪魔してもよろしいだろうか?」
しかしガシャコンガシャコンの音は止まらない。源外はからくりに向かって一心不乱に作業をしている。 桂はもう一度、今度はもっと大きな声でおとないを告げた。
「源外殿。桂です。お仕事中申し訳ないがお邪魔してもよろしいだろうか?」
「あー? 何だって?」
ようやく来訪に気付いた源外が外を向いた。同時にガシャコンの音も止まる。
「よお。ヅラっちじゃねェか」
桂を見とめた源外はにかっと笑った。桂はからくり堂の中に入りつつ挨拶をした。
「お仕事中申し訳ない。しばしお時間を頂戴してもよろしいか?」
「そんな堅苦しい挨拶は抜きだ。今、お茶でも入れるからそこら辺に座ってくんな」
そう言うと、からくりの三郎にお茶二つくんなと言いつけた。
「それでどうしたい? 今日は」
桂に向き直る。
「いや、先日作っていただいた超高性能センサーのお礼に参ったのだ」
言いながら桂は持参した菓子折りを差し出した。
「礼なんていらねェのに。代金はしっかりもらったじゃねェか」
「それはそうなのだが、あのからくりは素晴らしい物であったのでな。お礼をと思うて。どうか納めてくださらんか?」
そこまで言うんじゃ遠慮なくもらうとするかと、源外は顔を綻ばせて菓子折りを受け取った。
「それでどうだったい? あのセンサーは。使ってみたのかい?」
三郎が持ってきたお茶を受け取って聞いた。
「先日の大江戸ヒルズでのテロ騒ぎはご存知か?」
桂もかたじけないと言って三郎からお茶を受け取った。
「大江戸ヒルズのテロ? あ~あそう言やどっかのテログループの馬鹿がセレブのガキ共を人質に取ったって話があったっけなあ」
桂は頷いた。
「俺はあの現場に居合わせて、テロを殲滅するために警察と協力をした。その時に源外殿に作っていただいた超高性能センサーが役に立った」
そうかいそうかいアレを使ったのか役に立って良かったと源外は上機嫌だ。
「素晴らしいセンサーでしたぞ。味方、敵の位置、見ている方向、どのルートを通ったら安全か一目でわかる優れ物。特にクリンの向きで見ている方向がわかるのは素晴らしい考えだ。さすがは源外殿の手による物」
「そんなに褒めるない。こっ恥ずかしいじゃねェか」
そう言いながらも満更でもない顔をしている。
「いつでも言ってくれ。入用な物があったらまた作ってやるからよ。ヅラっちはあちこちに潜入することが多いからな。あのセンサーを持ってれば万に一つしくじることもねェだろうよ」
「お心使い痛み入る。したが今度作っていただく時はマークを考え直さないとならない」
「マーク? マークって人間を表すマークのことかい?」
そうですと答えて桂は湯飲みをことりと傍らに置いた。
「可愛いマークが良いと思ってソフトクリームにしたのだが、あれは人間がウンコをするとクリーム部分とコーンの部分が分裂してウンコと人間に別れてしまったのだ。それで大層混乱した」
それを聞くと源外はガッハッハと大笑いした。
「スゲーだろ。ソフトクリームに見せかけて人間とウンコに分けておいたんだ。だからウンコをするとすぐにわかるようになってたのさ」
江戸髄一と言われるからくり技師はまた余計な悪戯をほどこしたらしい。そのお陰で緊迫した事件の最中にそこら中にソフトクリームのクリーム部分がころがってどれが人間なのかウンコなのかわからないという事態に陥った。
「ううむ。源外殿の遊び心には感服する」
「そうだろ。人間どんな時も、どんな窮地に陥っていたとしても遊び心を忘れちゃいけねえ」
ふんふんと桂は感心していた。
「それで? 今度はどんなのがいいんだ? ソフトクリームは一回使ったから他のヤツがいいのか?」
「そうだな。ここへ来る道すがら考えていたのだが、やはり殺伐とした用途に使うものであれば可愛いマークにしておきたい」
うんうんと源外は聞いている。
「今度は肉球などいかがであろうか?」
「肉球? 猫や犬の足の裏か?」
「さよう。あのぷにぷにとした弾力。香ばしい香り。今度はあれがいいです」
うっすらと頬を染めて桂が言い切った。
「肉球ねえ…」
源外は顎を撫でながら考えた。確かに猫や犬の足跡のスタンプを見ると可愛いと思う。桂が可愛い物好きであることは前回のソフトクリームセンサーでわかった。依頼主は桂なのだし彼の言うとおりにしてやろう。
「よっしゃ。今度のマークは肉球でいこう」
「やってくださるのか? 源外殿」
桂の顔がパアアと明るくなった。
「あたぼうよ。俺の手にかかりゃあ猫でも犬でも立派な肉球マークになるってもんさ」
源外は腕を叩いて請合う。
「それで敵と味方の区別はどうすんだ? 猫と犬。どっちを味方にどっちを敵にするんだ?」
聞いたら桂が眉を顰めた。
「そこが問題なのだ源外殿。猫も犬も悪者ではないし、どっちを敵キャラにしたら良いかわからないのだ」
「ふーん。俺なら犬の方が好きだから犬を味方にして猫を敵キャラにするけどな」
「源外殿!!」
何気なく言ったらすごい勢いで桂が叫んだ。
「猫と犬の区別をするなど…。それは酷い。猫だけをつまはじきにするなど酷いぞ。それはなんだ…、だからアレだとにかく酷いぞ。猫も犬もあんなに愛らしいではないか。猫だけ敵キャラになどできん」
桂の勢いに源外は幾分引きながら言った。
「わかったわかった。猫を敵キャラにするのは止めるからよ。だから落ち着けってヅラっち。おいらが悪かった」
桂は源外の謝る言葉も耳に入らないらしく、猫が良いか犬が良いかはたまた両方とも味方のキャラにするかと悩んでいる。
「うおおおお。猫の肉球か犬の肉球か。俺は…俺は…どうすれは良いのだぁぁぁぁっっっ!!!」
頭を抱える桂。そうしたら後から声がした。
「猫でも犬でもどっちでもイイじゃねーかバーカ」
ついでに桂の黒い頭が思いっきり引っぱたかれた。
「痛っ!! 何をする。狼藉者めが!!」
頭を押さえた桂が後を向くと銀時が立っていた。片袖抜いて懐手いつものごとく気だるそうに立っている。
「何をするのだ銀時。痛いではないか」
桂が食ってかかるとバッカじゃねェのてめェと言って今度はデコピンを喰らわせた。
「人ンちの店先でなーにをギャアギャア騒いでるンだてめェは。しかも猫だの犬だのからくり屋でする話じゃねーだろ。妄想電波で頭パーンってなったか? バカヅラ」
そう言ってからよォじーさんと源外に声をかけた。
「よお銀の字。今日は千客万来だな。どうしたい?」
源外が愛想よく答えた。バカヅラじゃない桂だと決まり文句を返す桂を無視して、銀時はバイクを押してからくり堂の中に入っていった。
「バイクのヤツがよォ。腹下してプスプスすかしっ屁をするのよ。ちょっと見てやってくんない?」
「なんだまたバイクの調子が悪いのか? もう寿命が来てんじゃねェのか? 修理するより買い換えた方が良くねェか?」
「買い換える金があるンならこんなシケた機械屋に来ねェって。何とかしてくれよじーさん。コイツは俺の相棒なんだよ修理してくれよ。アンタを江戸一番のからくり技師だと見込んで頼むよ」
泣きつく銀時にどれどれと源外は腰を上げた。バイクをしげしげと検分する。しばらくバイクを点検していた源外が顔を上げた。
「こりゃあ部品とっかえねェと駄目だな。部品代がかかるがいいよな」
「いいです。買い換えるよりアンタんトコのほうが安いから」
修理してくれそうだと知って銀時の声が弾んだ。ったく調子のいいヤツだよおめえはよと言いながら、源外は奥に部品を取りに行った。
「で、俺の愛車ちゃんはいいとして、てめェはジジイになんの用だったンだよ」
銀時が桂に向き直った。桂は頭を叩かれたり罵られたりした後なので憮然とした顔をしていた。
「おまえの知ったことではない。それに俺の依頼は超高性能なからくりだ。おまえのポンコツバイクとは違う」
「ナニコイツ。人の愛車つかまえてポンコツとか言ってくれちゃって。てめェの頭のほうがよっぽどポンコツだろうがコノヤロー」
「おまえのポンコツ頭には負けるがな」
「マテマテマテ。いつ俺の頭がポンコツになった? てめェの怪電波がつまったイカれた頭より俺の頭のほうがよっぽど遥かにこの上なくまともですゥ」
銀時の悪口を聞いて桂の臍が曲がった。
「ようし決めたぞ。猫と犬とどちらを敵キャラにするかで迷っていたが解決した。源外殿。味方は猫の肉球にして敵キャラは天パにしてくだされ。白髪の天パでお願いします」
「ちょおっと待て。そりゃあどういう意味だ。味方とか敵キャラとかってどういう意味だ」
桂はふふんという顔をした。
「さっきも言うたであろう。俺が源外殿に頼んでいるのは超高性能センサーだ。味方と敵の位置を把握し潜入捜査に使うセンサーだ。それにはそれぞれのマークを作って敵と味方を区別しなければならない。前回はソフトクリームにしたのだが、少々見分けるのが難しかったので今度はもっと簡単で明瞭な物をと思っていた。味方キャラは良いのだが、敵キャラを何にするか悩んでいたのだ。そうしたら妙案が浮かんでな。白髪天パを敵キャラにしようと考え付いた次第だ」
どうだすごいだろうと桂は胸を張る。一方の銀時はおもしろくない。
「敵キャラの白髪天パって俺のことじゃね? なんで味方キャラが肉球で敵キャラが俺なんだよ」
「なんだと? 敵キャラはおまえなのか? 否、俺は知らなんだ。敵キャラは白髪天パと言うただけで、おまえだとは一言も言っておらんぞ。なぜ自分だと思うのだ?」
食ってかかればしれっと返された。桂のとぼけた返答に銀時のこめかみがひきつる。
「この状況で白髪の天パが俺以外の誰がいるってんだよ。俺に決まってンだろ。ネチネチ根に持つタイプのてめェが考えそうなことだよな」
なんのことだ? 俺は知らぬぞと桂は涼しい顔。
「ったくコノヤロー。後で憶えてやがれ」
銀時は捨て台詞を吐いた。桂はしてやったりとくくくと含み笑いをしている。
「源外殿。やはり天パはやめておこう。今度はカツラと人間が一体化していたらやはりややこしくなるからな。カツラも天パでカツラを脱いだ人間も天パでは何がどうなっているのかわからなくなる」
桂は充分銀時に意趣返しができたので、天パ敵キャラ案を引っ込めた。
「そうなると敵キャラは何にしたら良いであろうな…」
また振り出しに戻る。思案顔になる桂。
「やはり可愛いキャラは外せぬな」
桂はまた猫が良いか犬が良いかと悩み出す。
「なんで可愛いキャラにこだわってんだよ」
銀時が聞けば桂ははあと溜息をついた。
「このセンサーを使うときは敵地に潜入している時だ。殺伐とした用途故マークだけでも可愛い物にしておきたいと思うであろう」
「ハイィィ? 重要なのソコォォォ?」
重要だぞと桂は大真面目に答える。
「つーかさつーかさ。センサー使ってる時って結構緊迫してる状況だよね。そんなときに可愛いキャラとか見てたら和ンじゃうんじゃねェの?」
「そこが良いのだ。どんなに緊迫した場面でも心にゆとりを持っていればどんなことも切り抜けられる。可愛いキャラはそのためにある」
「ハア…。そうですか…」
桂が断固と言い張るので銀時は引いた。
「センサーのキャラねェ…」
銀時も考える。別に銀時には関係ないことだが、桂のことになるといっしょになって考えてしまうのはいつものことだ。銀時は癖毛をかき回して考えていたが、ふと良い案が浮かんだ。
「お、コレ良くね? 俺イイ案考えたんじゃね?」
ほうどんな考えだと桂が銀時を見る。銀時はへへんと笑った。
「いいか。味方キャラはチョコレートパフェで、敵キャラはペンギンオバケ…」
最後まで言わないうちに桂の脳天チョップが銀時の頭に入った。
「イッデェェェェッッッッ!!! ナニすんだよてめェヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。それにペンギンオバケじゃないエリザベスだ」
「ペンギンオバケじゃないエリザベスだと言い直すってことはおめェだってアイツがペンギンだと思ってる証拠じゃねェか…。グエッ」
今度は腹に一発決められた。腹を抱える銀時と、ふんっとばかりに横を向く桂。
「てってめェ…。二度も殴りやがって…。後で憶えてろよ…」
「さあどうだかな。俺は忘れっぽいのでな」
ふふんと言い返してくる顔が憎らしい。
「それと敵キャラにエリザベスを使うなどもっての他だ。確かにエリザベスはとても愛らしいがな。敵キャラにはできぬ。俺の心がすさむ。それならやはり天パの方が良い」
「おめェナニ言っちゃってくれてンのォ? おめェ俺とあの未確認生命体とどっちが大事なんだよォォォ」
「貴様こそ何を言うか。比べることでもないであろう」
まったく馬鹿なヤツだと溜息をついた。
「エリザベスと張り合うな。おまえはおまえでエリザベスはエリザベスだ」
「なんか…。釈然としないんですケドォ」
「おまえが敵キャラにエリザベスを使うなどと言うからだ。安心しろ天パも使わぬから」
桂がふっと笑った。
「じゃあ。敵キャラはナニにするんだよ」
「そうだな。結局は○か△か□か×でも良いのだ。しかし可愛いマークにしたいと思うたからいろいろ考えてしまってな。おおそう言えば銀時の白髪天パも俺にとっては可愛い物だったのだな」
何故か感心したように言う桂に銀時がぷつっとキレた。
「てめェッッッ!!! やっぱ白髪天パは俺のことだったんじゃねェかッッッ! 今銀時の白髪天パって言ったよな」
しまったと口を手で押さえる桂。
「絶対使うなよ。俺の白髪天パをセンサーのマークにしたら唯じゃおかねェぞ。ペンギンを使え。いいな」
「だからペンギンではないエリザベスだと言うているであろう」
からくり堂の中でぎゃんぎゃんと言い合う銀時と桂。
「あのよォ。取り込み中のところすまねェケド。銀の字のバイク直ったぞ。代金は部品代と取替え料で一万に負けといてやるから、さっさとバイク持って出てってくんな。後ヅラっちもだ。センサーのマークは俺が適当にやっといてやるから今日は帰ェりな」
源外の言葉にいがみ合っていた二人はしんとする。
「おめえたちが仲が良いのはわかったからよ。だけどここでイチャイチャすんのはやめてくれ。どっか他の所でやってくんな。やかましくて敵わねえ」
銀時と桂はからくり堂を追い出されてしまった。
「ったくよォ。てめェがうるせーから源外のジジイが怒っちまったンだぞ」
銀時はバイクをのしのし押して歩く。
「何を言うか。おまえが騒ぐから源外殿は気分を害されたのだ」
おまえだおまえだと相手のせいにしながら夕暮れの町を歩く。
今日はすぐに家に帰らずにこのまま二人で飲み屋に行こうなんて互いに心の隅で思っていることはまだ知らない。
源外さんはヅラのこと何て呼ぶのかわからなくて考えました。銀ちゃんが銀の字だから、やっぱりあだ名的に呼んでるのかなと。それなら長谷川さんと同じヅラっちがいいかなと思ってそうしました。
「源外殿。桂ですがお邪魔してもよろしいだろうか?」
しかしガシャコンガシャコンの音は止まらない。源外はからくりに向かって一心不乱に作業をしている。 桂はもう一度、今度はもっと大きな声でおとないを告げた。
「源外殿。桂です。お仕事中申し訳ないがお邪魔してもよろしいだろうか?」
「あー? 何だって?」
ようやく来訪に気付いた源外が外を向いた。同時にガシャコンの音も止まる。
「よお。ヅラっちじゃねェか」
桂を見とめた源外はにかっと笑った。桂はからくり堂の中に入りつつ挨拶をした。
「お仕事中申し訳ない。しばしお時間を頂戴してもよろしいか?」
「そんな堅苦しい挨拶は抜きだ。今、お茶でも入れるからそこら辺に座ってくんな」
そう言うと、からくりの三郎にお茶二つくんなと言いつけた。
「それでどうしたい? 今日は」
桂に向き直る。
「いや、先日作っていただいた超高性能センサーのお礼に参ったのだ」
言いながら桂は持参した菓子折りを差し出した。
「礼なんていらねェのに。代金はしっかりもらったじゃねェか」
「それはそうなのだが、あのからくりは素晴らしい物であったのでな。お礼をと思うて。どうか納めてくださらんか?」
そこまで言うんじゃ遠慮なくもらうとするかと、源外は顔を綻ばせて菓子折りを受け取った。
「それでどうだったい? あのセンサーは。使ってみたのかい?」
三郎が持ってきたお茶を受け取って聞いた。
「先日の大江戸ヒルズでのテロ騒ぎはご存知か?」
桂もかたじけないと言って三郎からお茶を受け取った。
「大江戸ヒルズのテロ? あ~あそう言やどっかのテログループの馬鹿がセレブのガキ共を人質に取ったって話があったっけなあ」
桂は頷いた。
「俺はあの現場に居合わせて、テロを殲滅するために警察と協力をした。その時に源外殿に作っていただいた超高性能センサーが役に立った」
そうかいそうかいアレを使ったのか役に立って良かったと源外は上機嫌だ。
「素晴らしいセンサーでしたぞ。味方、敵の位置、見ている方向、どのルートを通ったら安全か一目でわかる優れ物。特にクリンの向きで見ている方向がわかるのは素晴らしい考えだ。さすがは源外殿の手による物」
「そんなに褒めるない。こっ恥ずかしいじゃねェか」
そう言いながらも満更でもない顔をしている。
「いつでも言ってくれ。入用な物があったらまた作ってやるからよ。ヅラっちはあちこちに潜入することが多いからな。あのセンサーを持ってれば万に一つしくじることもねェだろうよ」
「お心使い痛み入る。したが今度作っていただく時はマークを考え直さないとならない」
「マーク? マークって人間を表すマークのことかい?」
そうですと答えて桂は湯飲みをことりと傍らに置いた。
「可愛いマークが良いと思ってソフトクリームにしたのだが、あれは人間がウンコをするとクリーム部分とコーンの部分が分裂してウンコと人間に別れてしまったのだ。それで大層混乱した」
それを聞くと源外はガッハッハと大笑いした。
「スゲーだろ。ソフトクリームに見せかけて人間とウンコに分けておいたんだ。だからウンコをするとすぐにわかるようになってたのさ」
江戸髄一と言われるからくり技師はまた余計な悪戯をほどこしたらしい。そのお陰で緊迫した事件の最中にそこら中にソフトクリームのクリーム部分がころがってどれが人間なのかウンコなのかわからないという事態に陥った。
「ううむ。源外殿の遊び心には感服する」
「そうだろ。人間どんな時も、どんな窮地に陥っていたとしても遊び心を忘れちゃいけねえ」
ふんふんと桂は感心していた。
「それで? 今度はどんなのがいいんだ? ソフトクリームは一回使ったから他のヤツがいいのか?」
「そうだな。ここへ来る道すがら考えていたのだが、やはり殺伐とした用途に使うものであれば可愛いマークにしておきたい」
うんうんと源外は聞いている。
「今度は肉球などいかがであろうか?」
「肉球? 猫や犬の足の裏か?」
「さよう。あのぷにぷにとした弾力。香ばしい香り。今度はあれがいいです」
うっすらと頬を染めて桂が言い切った。
「肉球ねえ…」
源外は顎を撫でながら考えた。確かに猫や犬の足跡のスタンプを見ると可愛いと思う。桂が可愛い物好きであることは前回のソフトクリームセンサーでわかった。依頼主は桂なのだし彼の言うとおりにしてやろう。
「よっしゃ。今度のマークは肉球でいこう」
「やってくださるのか? 源外殿」
桂の顔がパアアと明るくなった。
「あたぼうよ。俺の手にかかりゃあ猫でも犬でも立派な肉球マークになるってもんさ」
源外は腕を叩いて請合う。
「それで敵と味方の区別はどうすんだ? 猫と犬。どっちを味方にどっちを敵にするんだ?」
聞いたら桂が眉を顰めた。
「そこが問題なのだ源外殿。猫も犬も悪者ではないし、どっちを敵キャラにしたら良いかわからないのだ」
「ふーん。俺なら犬の方が好きだから犬を味方にして猫を敵キャラにするけどな」
「源外殿!!」
何気なく言ったらすごい勢いで桂が叫んだ。
「猫と犬の区別をするなど…。それは酷い。猫だけをつまはじきにするなど酷いぞ。それはなんだ…、だからアレだとにかく酷いぞ。猫も犬もあんなに愛らしいではないか。猫だけ敵キャラになどできん」
桂の勢いに源外は幾分引きながら言った。
「わかったわかった。猫を敵キャラにするのは止めるからよ。だから落ち着けってヅラっち。おいらが悪かった」
桂は源外の謝る言葉も耳に入らないらしく、猫が良いか犬が良いかはたまた両方とも味方のキャラにするかと悩んでいる。
「うおおおお。猫の肉球か犬の肉球か。俺は…俺は…どうすれは良いのだぁぁぁぁっっっ!!!」
頭を抱える桂。そうしたら後から声がした。
「猫でも犬でもどっちでもイイじゃねーかバーカ」
ついでに桂の黒い頭が思いっきり引っぱたかれた。
「痛っ!! 何をする。狼藉者めが!!」
頭を押さえた桂が後を向くと銀時が立っていた。片袖抜いて懐手いつものごとく気だるそうに立っている。
「何をするのだ銀時。痛いではないか」
桂が食ってかかるとバッカじゃねェのてめェと言って今度はデコピンを喰らわせた。
「人ンちの店先でなーにをギャアギャア騒いでるンだてめェは。しかも猫だの犬だのからくり屋でする話じゃねーだろ。妄想電波で頭パーンってなったか? バカヅラ」
そう言ってからよォじーさんと源外に声をかけた。
「よお銀の字。今日は千客万来だな。どうしたい?」
源外が愛想よく答えた。バカヅラじゃない桂だと決まり文句を返す桂を無視して、銀時はバイクを押してからくり堂の中に入っていった。
「バイクのヤツがよォ。腹下してプスプスすかしっ屁をするのよ。ちょっと見てやってくんない?」
「なんだまたバイクの調子が悪いのか? もう寿命が来てんじゃねェのか? 修理するより買い換えた方が良くねェか?」
「買い換える金があるンならこんなシケた機械屋に来ねェって。何とかしてくれよじーさん。コイツは俺の相棒なんだよ修理してくれよ。アンタを江戸一番のからくり技師だと見込んで頼むよ」
泣きつく銀時にどれどれと源外は腰を上げた。バイクをしげしげと検分する。しばらくバイクを点検していた源外が顔を上げた。
「こりゃあ部品とっかえねェと駄目だな。部品代がかかるがいいよな」
「いいです。買い換えるよりアンタんトコのほうが安いから」
修理してくれそうだと知って銀時の声が弾んだ。ったく調子のいいヤツだよおめえはよと言いながら、源外は奥に部品を取りに行った。
「で、俺の愛車ちゃんはいいとして、てめェはジジイになんの用だったンだよ」
銀時が桂に向き直った。桂は頭を叩かれたり罵られたりした後なので憮然とした顔をしていた。
「おまえの知ったことではない。それに俺の依頼は超高性能なからくりだ。おまえのポンコツバイクとは違う」
「ナニコイツ。人の愛車つかまえてポンコツとか言ってくれちゃって。てめェの頭のほうがよっぽどポンコツだろうがコノヤロー」
「おまえのポンコツ頭には負けるがな」
「マテマテマテ。いつ俺の頭がポンコツになった? てめェの怪電波がつまったイカれた頭より俺の頭のほうがよっぽど遥かにこの上なくまともですゥ」
銀時の悪口を聞いて桂の臍が曲がった。
「ようし決めたぞ。猫と犬とどちらを敵キャラにするかで迷っていたが解決した。源外殿。味方は猫の肉球にして敵キャラは天パにしてくだされ。白髪の天パでお願いします」
「ちょおっと待て。そりゃあどういう意味だ。味方とか敵キャラとかってどういう意味だ」
桂はふふんという顔をした。
「さっきも言うたであろう。俺が源外殿に頼んでいるのは超高性能センサーだ。味方と敵の位置を把握し潜入捜査に使うセンサーだ。それにはそれぞれのマークを作って敵と味方を区別しなければならない。前回はソフトクリームにしたのだが、少々見分けるのが難しかったので今度はもっと簡単で明瞭な物をと思っていた。味方キャラは良いのだが、敵キャラを何にするか悩んでいたのだ。そうしたら妙案が浮かんでな。白髪天パを敵キャラにしようと考え付いた次第だ」
どうだすごいだろうと桂は胸を張る。一方の銀時はおもしろくない。
「敵キャラの白髪天パって俺のことじゃね? なんで味方キャラが肉球で敵キャラが俺なんだよ」
「なんだと? 敵キャラはおまえなのか? 否、俺は知らなんだ。敵キャラは白髪天パと言うただけで、おまえだとは一言も言っておらんぞ。なぜ自分だと思うのだ?」
食ってかかればしれっと返された。桂のとぼけた返答に銀時のこめかみがひきつる。
「この状況で白髪の天パが俺以外の誰がいるってんだよ。俺に決まってンだろ。ネチネチ根に持つタイプのてめェが考えそうなことだよな」
なんのことだ? 俺は知らぬぞと桂は涼しい顔。
「ったくコノヤロー。後で憶えてやがれ」
銀時は捨て台詞を吐いた。桂はしてやったりとくくくと含み笑いをしている。
「源外殿。やはり天パはやめておこう。今度はカツラと人間が一体化していたらやはりややこしくなるからな。カツラも天パでカツラを脱いだ人間も天パでは何がどうなっているのかわからなくなる」
桂は充分銀時に意趣返しができたので、天パ敵キャラ案を引っ込めた。
「そうなると敵キャラは何にしたら良いであろうな…」
また振り出しに戻る。思案顔になる桂。
「やはり可愛いキャラは外せぬな」
桂はまた猫が良いか犬が良いかと悩み出す。
「なんで可愛いキャラにこだわってんだよ」
銀時が聞けば桂ははあと溜息をついた。
「このセンサーを使うときは敵地に潜入している時だ。殺伐とした用途故マークだけでも可愛い物にしておきたいと思うであろう」
「ハイィィ? 重要なのソコォォォ?」
重要だぞと桂は大真面目に答える。
「つーかさつーかさ。センサー使ってる時って結構緊迫してる状況だよね。そんなときに可愛いキャラとか見てたら和ンじゃうんじゃねェの?」
「そこが良いのだ。どんなに緊迫した場面でも心にゆとりを持っていればどんなことも切り抜けられる。可愛いキャラはそのためにある」
「ハア…。そうですか…」
桂が断固と言い張るので銀時は引いた。
「センサーのキャラねェ…」
銀時も考える。別に銀時には関係ないことだが、桂のことになるといっしょになって考えてしまうのはいつものことだ。銀時は癖毛をかき回して考えていたが、ふと良い案が浮かんだ。
「お、コレ良くね? 俺イイ案考えたんじゃね?」
ほうどんな考えだと桂が銀時を見る。銀時はへへんと笑った。
「いいか。味方キャラはチョコレートパフェで、敵キャラはペンギンオバケ…」
最後まで言わないうちに桂の脳天チョップが銀時の頭に入った。
「イッデェェェェッッッッ!!! ナニすんだよてめェヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。それにペンギンオバケじゃないエリザベスだ」
「ペンギンオバケじゃないエリザベスだと言い直すってことはおめェだってアイツがペンギンだと思ってる証拠じゃねェか…。グエッ」
今度は腹に一発決められた。腹を抱える銀時と、ふんっとばかりに横を向く桂。
「てってめェ…。二度も殴りやがって…。後で憶えてろよ…」
「さあどうだかな。俺は忘れっぽいのでな」
ふふんと言い返してくる顔が憎らしい。
「それと敵キャラにエリザベスを使うなどもっての他だ。確かにエリザベスはとても愛らしいがな。敵キャラにはできぬ。俺の心がすさむ。それならやはり天パの方が良い」
「おめェナニ言っちゃってくれてンのォ? おめェ俺とあの未確認生命体とどっちが大事なんだよォォォ」
「貴様こそ何を言うか。比べることでもないであろう」
まったく馬鹿なヤツだと溜息をついた。
「エリザベスと張り合うな。おまえはおまえでエリザベスはエリザベスだ」
「なんか…。釈然としないんですケドォ」
「おまえが敵キャラにエリザベスを使うなどと言うからだ。安心しろ天パも使わぬから」
桂がふっと笑った。
「じゃあ。敵キャラはナニにするんだよ」
「そうだな。結局は○か△か□か×でも良いのだ。しかし可愛いマークにしたいと思うたからいろいろ考えてしまってな。おおそう言えば銀時の白髪天パも俺にとっては可愛い物だったのだな」
何故か感心したように言う桂に銀時がぷつっとキレた。
「てめェッッッ!!! やっぱ白髪天パは俺のことだったんじゃねェかッッッ! 今銀時の白髪天パって言ったよな」
しまったと口を手で押さえる桂。
「絶対使うなよ。俺の白髪天パをセンサーのマークにしたら唯じゃおかねェぞ。ペンギンを使え。いいな」
「だからペンギンではないエリザベスだと言うているであろう」
からくり堂の中でぎゃんぎゃんと言い合う銀時と桂。
「あのよォ。取り込み中のところすまねェケド。銀の字のバイク直ったぞ。代金は部品代と取替え料で一万に負けといてやるから、さっさとバイク持って出てってくんな。後ヅラっちもだ。センサーのマークは俺が適当にやっといてやるから今日は帰ェりな」
源外の言葉にいがみ合っていた二人はしんとする。
「おめえたちが仲が良いのはわかったからよ。だけどここでイチャイチャすんのはやめてくれ。どっか他の所でやってくんな。やかましくて敵わねえ」
銀時と桂はからくり堂を追い出されてしまった。
「ったくよォ。てめェがうるせーから源外のジジイが怒っちまったンだぞ」
銀時はバイクをのしのし押して歩く。
「何を言うか。おまえが騒ぐから源外殿は気分を害されたのだ」
おまえだおまえだと相手のせいにしながら夕暮れの町を歩く。
今日はすぐに家に帰らずにこのまま二人で飲み屋に行こうなんて互いに心の隅で思っていることはまだ知らない。
源外さんはヅラのこと何て呼ぶのかわからなくて考えました。銀ちゃんが銀の字だから、やっぱりあだ名的に呼んでるのかなと。それなら長谷川さんと同じヅラっちがいいかなと思ってそうしました。