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ずっと停滞しておりましたが、小噺が書けましたのでUPします。
7月に載っていたYahoo!ニュースが元ネタです。ヅラが喜びそうだな~と思い、その時から小噺にしようと思っていたのですが、一ヶ月以上もたってしまいました。

続きからどうぞ。


拍手ありがとうございました。止まったままのサイトに訪問して拍手をしてくださることのなんとありがたいことか。身にしみております。





仕事がなかったその日は新八を早めに返して夕飯も早めに用意した。後片付けも済ませて、さて今夜は家でゆっくり酒でも飲もうかと思っていた矢先、外から轟音が響いてきた。外階段を遠慮も気使いもなく駆け上がってくる音だ。次いで通路を踏み抜かんばかりのダダダダッという音が近づいてくる。

「オイオイオイ。なんだよコリャァ。アイツ来ちゃった?」

こんな訪問の仕方をするヤツは知っている限り一人しかいない。余程慌てふためいた依頼人を除いては。

「銀ちゃん。凄い音ネ。これはヤツか? ヤツアルか?」

神楽もこの音の主が誰かちゃんとわかっている。

「そうね。たぶんきっと絶対ヤツだと思うよ」

溜息まじりに銀時が答えたとき、スパーンと玄関扉が開く音がした。そして『銀時ィィィッッッ!! いるか? 銀時ィィィッッッ!!』と呼ばわる声。

「やっぱりヅラネ」
「やっぱりヅラだね」

こっちはこれから家飲みを楽しもうと思っていたのに、アイツはなんの厄介ごとを持ち込んだんだ? やれやれよっこらしょ。そう思いながら思い腰を上げた。玄関からは『銀時。銀時。桂だ。出て来てくれ』とばたばた騒いでいる。

「ダーッ。うっせーンだよ。てめェはッ。てめェだって言われなくたっててめェだってわかってっからその口閉じろ」

文句を言いつつ玄関へ行く。銀時の姿を見て桂の顔がぱああっと輝いた。

「おお銀時。良くぞこの時にいてくれた。いてくれなかったらどうしようかと思っていたぞ」

興奮気味に喋る桂。

イヤイヤイヤ。俺はいないほうが良かったンじゃねーかと思うよ。うん。ぜってーいねェほうが良かったと思う。今からでもどっかへ雲隠れするか、居留守を使えば良かったと思ってるよ。

普段から所作がきちんとしていて、他人の家を訪問するのに階段をバタバタ上がったり、許可無く扉を開けたりすることはない桂がそういうことをする時は。日頃の行いをすっ飛ばすような何かが彼の頭の中を占めているという時だ。そしてそれは大抵禄でもないことなのだ。それをわかっていても、この物騒な男を無下に扱えないのは仕方がない。腐れ縁の幼馴染みとという関係に収まりきれなくなった唯一無二の連れ合いだから。だから面倒だうざいと思いつつも付き合ってしまう。

「そんで? 今度はどんなめんどーなことを持って来たワケ?」

鼻をほじりながらいかにも面倒だという声を出せば、桂は心外だといわんばかりの顔をした。

「何を言うか。俺がいつおまえに面倒事を持ってきたというのだ」
「いつもいつも四六時中」
「む。俺は面倒事など起こさんぞ。人様の手を煩わすようなことはせぬ」

イヤイヤイヤどこの誰がどんな口でそんなこと言っちゃってくれてるワケ? わかってないよね。面倒なことを起こすヤツほど自分が厄介なヤツだってわかってないンだよね。

「そんなことよりこれを見てくれ銀時」

銀時の内心の懊悩など知る由もない桂は自分のことで一杯だ。迷惑がられているなんてこれっぽっちも思っていない。銀時は大きな溜息をついた。

「で? 何を見ろって?」

これだこれを見ろと差し出すのは桂愛用の林檎のノートパソコン。それを開いて起動させようとしている。

「あのさ。玄関先でンなモン開けられてもナンだから。奥行かね」

おおそれはかたじけないと言うと桂はさっさと草履を脱いだ。

「あ。やっぱりヅラネ」
「こんばんは。リーダー」

居間兼事務所で和やかに挨拶をする神楽と桂。

「丁度良い。リーダーもいっしょにこの素晴らしい物を見てくれ」

素晴らしい物ってなにネ? 美味い物アルカ? と神楽は子供らしく興味を惹かれている。

「食べ物ではないがな」

すまぬなリーダーと言って長椅子に座った桂はパソコンを起動させる。ブーンという密かな機械音がしてパソコンがセットアップを始めた。銀時も桂の隣に陣取って何が出てくるのかを待つ。

「こんだけ騒いだんだ。おもしれェモンが出てくるンだろうな。つまんねェモンだったら唯じゃおかねェぞ」

脅しをかけるとまあまあ黙って見ておれと軽くいなされる。かちゃかちゃとキーを叩いてパスワードを入力すると画面が切り替わった。

「なんだこりゃあ?」

画面一面に現れたのは何十体というエリザベス。エリザベス総柄の壁紙画像だ。

「うわあ。エリーがいっぱいネ」
「おええ。キモチワルッ」
「可愛い画像だろう」

喜ぶ神楽に気持ち悪そうに口元を押さえる銀時、そして自慢気な桂。

「可愛いエリザベスの可愛い壁紙なのだが、ついつい数を数えてしまってな。いつの間にか眠ってしまって仕事にならないのがタマに傷なのだ」

ザベスがたくさんいると数えてしまうのは、桂の習性らしい。

「おまえねえ。見せたい物ってこれじゃねェだろうな」

不気味なペンギンオバケの画像だったら蹴りの一発や二発食らわせてやる。

「否。これも俺の自慢の一つだが、見てほしい物はこれではない。他にある」

エリザベス総柄のためとても見難くなっているデスクトップのアイコンを桂がクリックした。すると銀時も電脳茶屋で見たことのあるポータルサイトであるyahhoo!の画面が出てきた。

「これだ! ここを見てくれ!」

興奮気味に桂が画面の一部分を指差した。それは今日のトピックスと書かれたニュースの部分だった。そこには『夜空に輝く赤い肉球、猫の手星雲』と書かれた見出しと写真。

「どうだすごいだろう銀時。宇宙に燦然と輝く巨大な肉球だ。これを目にしていても立ってもいられなくなってこれは是非銀時にも見せねばならぬと思うたのだ」

桂は大興奮だ。

「宇宙というのはすごいのだな。我らの母なる星だけでなく、リーダーの星だけでなく、肉球まで擁しているとは奥が深い。俺は宇宙に対する考えを改めたぞ」
「あー? どれが肉球だってェ? なんかガスみてェなモヤモヤしたモンが四個くれェあるだけだぞ」

おめェわかるか? と神楽にも聞く。

「そうアルなあ…。猫の手と言われてみればそう見えなくもないけど…。銀ちゃんの言う通りモヤモヤしてて良くわからないアル」

これでヅラが興奮する意味もなと付け加える神楽。

「なにを言っているのだ二人とも。想像力を働かせるんだ。ここが爪でここが指でここが麗しの肉球だぞ」

一々指をさして説明をする桂だが、銀時と神楽の反応は今一つ。

「そんで? おめェが見せたかったモンってコレ?」

今更なことを聞くと云々と桂が元気良く頷いた。

「あのさあ。おめェさあ。こんなモンで興奮して物凄い勢いでウチに来たワケ?」
「こんなモンとはなんだ。素晴らしい物ではないか。宇宙規模の肉球だぞ」
「へーへー。わーってますよ。おめェの肉球好きは。だけど俺にはどう見ても肉球には見えないンだケド」

無類の肉球好きにはこのガスでモヤモヤした塊が肉球に見えるのだろう。しかしさして興味のない銀時には赤いガスの塊にしか見えない。

「銀時。俺はこの肉球たちを間近で見るぞ」
「ハイィィ?」
「これらを放っておくなど俺にはできん。もっと近くでしかりと見るために宇宙に行くことにした」
「ナンデスト?」
「坂本に連絡をした。都合の良いことに地球の傍を通ると言うので寄ってもらうことになった。快臨丸に乗せてもらうのだ」
「バカ本と宇宙にいくだあ?」

さすがに桂だ。行動が素早い。相変わらず自分の趣味嗜好に貪欲なやつだ。そしてやることが極端な事も相変わらず。

しかし銀時は桂が坂本に連絡を取ったということが気に入らなかった。坂本はなにかと桂にちょっかいを出すので要注意なのだ。

「おめェ。なんで黒モジャなワケ? なんで先に俺に相談しないワケ?」
「坂本なら宇宙に連れて行ってくれるからだ。それとも何か? おまえに相談したら猫の手星雲を見に連れて行ってくれるとでも言うのか?」
「エ? イヤイヤイヤ。それはまあナイというかナイケド」
「そうであろう。おまえには俺を宇宙に連れて行く手段も甲斐性もないではないか。坂本を頼ってなにが悪い」
「どーせ俺は甲斐性のない貧乏人ですよー」

銀時がむくれたのを見て桂が困った顔をする。

「坂本が気に入らないなら高杉に頼めば良かったか?」
「高杉ィ? アイツはもっとダメ。ダメっつったらぜってーダメ」

そう言うと思うていたから坂本に頼んだのだとブツブツ。

「むくれるな銀時。俺だけ宇宙の肉球を楽しむ事はしないぞ。さあ。おまえも支度をしろ。いっしょに宇宙に行くぞ」
「ハイィィ?」

これを見に、この赤いモヤモヤを見に宇宙に行くのか? 

いや俺はいいから。赤い肉球に興味はねェしバカ本の船に乗るのも御免こうむるからと言おうとしたのに桂は早く支度をしろと急かす。そのうちに家の外からゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきた。まさかと思った銀時は桂に確かめる。

「おめェ。あのバカにどこに迎えに来いっつった?」
「銀時もいっしょに連れていくから銀時のところへと」

さも当然と答える桂。それを聞いて青ざめる銀時。

「なにか不都合があったか?」
「不都合もなにも大有りだっつーのッッッ!!!」

そうこうしているうちにもゴゴゴゴゴゴという音は大きくなっていく。

逃げるぞ神楽、アイアイサー銀ちゃんと銀時と神楽の二人は玄関に向かって走り出した。

「おおーい。そんなに慌てなくてもおまえ達を置いて行ったりはしないぞ」

居間の長椅子では桂がのほほんと座っている。困ったやつらだ。興味はないとか宇宙には行かないと言っておきながら我先にと飛び出すとは。本当は肉球を見に宇宙に行きたかったのだな。それならそうと素直に言えば良いものを。

「おおーい。俺も行くから待ってくれ」

玄関に向かって声をかけると銀時がダダダダッと戻ってきた。

「このバカヅラ。のんきに座ってンじゃねェ。さっさと来い」
「今行こうとしていたぞ。うわわっ!!」

桂が話しているのを最後まで聞かずに、腕をつかんで引きずるように連れ出した。銀時草履がはけていないというのも耳をかさずに、そのまま通路を走って階段下を目指す。

「神楽ッ! 退避だ退避~~~ッッッ!!!」

スナックお登勢の前まで逃げてくるのと、めりめりと音をたてて万事屋の屋根に宇宙船が突き刺さったのは同時だった。

「こっこれはなんと…」

桂は宇宙船が刺さって半壊した屋根に目を瞠って驚いている。

「だから嫌なんだよ。あの黒モジャのバカが地球に降りてくるのは~~~。また家がぶっ壊れちまったじゃねーか」
「銀時のところに迎えに来てくれとは言ったが屋根に不時着しろとは言わなんだ」
「これじゃ宇宙に行くどころじゃねーぞ」

銀時は宇宙船と壊れた屋根をうんざりと見やった。もう少ししたら坂本が姿を現し、あの豪快な高笑いをしながら『すまんの~。金時。着陸地点をちくっと誤ってしもうたじゃき』と言うのだ。

「どうしよう銀時。万事屋の屋根が。坂本は無事なのだろうか?」

おろおろしている桂。

「バカは百篇不時着したって死にやしねーよ。というかこの惨状はてめェのせいだろ。てめェが宇宙に行きたいとか言い出したからこうなったンだろ」

あーあ。やっぱりコイツ厄介事を持って来たよ。坂本が出てきたら桂と二人まとめて張り倒してやろうか。







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