日々諸々
H21年1月30日登録
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
久しぶりの小噺です。エヅラ子さんのクリンクリンに触発されて書きました。続きからどうぞ。
からくり堂では今日もガシャコンガシャコンと賑やかな音がする。その前に立った桂は声を張り上げた。
「源外殿。桂ですがお邪魔してもよろしいだろうか?」
しかしガシャコンガシャコンの音は止まらない。源外はからくりに向かって一心不乱に作業をしている。 桂はもう一度、今度はもっと大きな声でおとないを告げた。
「源外殿。桂です。お仕事中申し訳ないがお邪魔してもよろしいだろうか?」
「あー? 何だって?」
ようやく来訪に気付いた源外が外を向いた。同時にガシャコンの音も止まる。
「よお。ヅラっちじゃねェか」
桂を見とめた源外はにかっと笑った。桂はからくり堂の中に入りつつ挨拶をした。
「お仕事中申し訳ない。しばしお時間を頂戴してもよろしいか?」
「そんな堅苦しい挨拶は抜きだ。今、お茶でも入れるからそこら辺に座ってくんな」
そう言うと、からくりの三郎にお茶二つくんなと言いつけた。
「それでどうしたい? 今日は」
桂に向き直る。
「いや、先日作っていただいた超高性能センサーのお礼に参ったのだ」
言いながら桂は持参した菓子折りを差し出した。
「礼なんていらねェのに。代金はしっかりもらったじゃねェか」
「それはそうなのだが、あのからくりは素晴らしい物であったのでな。お礼をと思うて。どうか納めてくださらんか?」
そこまで言うんじゃ遠慮なくもらうとするかと、源外は顔を綻ばせて菓子折りを受け取った。
「それでどうだったい? あのセンサーは。使ってみたのかい?」
三郎が持ってきたお茶を受け取って聞いた。
「先日の大江戸ヒルズでのテロ騒ぎはご存知か?」
桂もかたじけないと言って三郎からお茶を受け取った。
「大江戸ヒルズのテロ? あ~あそう言やどっかのテログループの馬鹿がセレブのガキ共を人質に取ったって話があったっけなあ」
桂は頷いた。
「俺はあの現場に居合わせて、テロを殲滅するために警察と協力をした。その時に源外殿に作っていただいた超高性能センサーが役に立った」
そうかいそうかいアレを使ったのか役に立って良かったと源外は上機嫌だ。
「素晴らしいセンサーでしたぞ。味方、敵の位置、見ている方向、どのルートを通ったら安全か一目でわかる優れ物。特にクリンの向きで見ている方向がわかるのは素晴らしい考えだ。さすがは源外殿の手による物」
「そんなに褒めるない。こっ恥ずかしいじゃねェか」
そう言いながらも満更でもない顔をしている。
「いつでも言ってくれ。入用な物があったらまた作ってやるからよ。ヅラっちはあちこちに潜入することが多いからな。あのセンサーを持ってれば万に一つしくじることもねェだろうよ」
「お心使い痛み入る。したが今度作っていただく時はマークを考え直さないとならない」
「マーク? マークって人間を表すマークのことかい?」
そうですと答えて桂は湯飲みをことりと傍らに置いた。
「可愛いマークが良いと思ってソフトクリームにしたのだが、あれは人間がウンコをするとクリーム部分とコーンの部分が分裂してウンコと人間に別れてしまったのだ。それで大層混乱した」
それを聞くと源外はガッハッハと大笑いした。
「スゲーだろ。ソフトクリームに見せかけて人間とウンコに分けておいたんだ。だからウンコをするとすぐにわかるようになってたのさ」
江戸髄一と言われるからくり技師はまた余計な悪戯をほどこしたらしい。そのお陰で緊迫した事件の最中にそこら中にソフトクリームのクリーム部分がころがってどれが人間なのかウンコなのかわからないという事態に陥った。
「ううむ。源外殿の遊び心には感服する」
「そうだろ。人間どんな時も、どんな窮地に陥っていたとしても遊び心を忘れちゃいけねえ」
ふんふんと桂は感心していた。
「それで? 今度はどんなのがいいんだ? ソフトクリームは一回使ったから他のヤツがいいのか?」
「そうだな。ここへ来る道すがら考えていたのだが、やはり殺伐とした用途に使うものであれば可愛いマークにしておきたい」
うんうんと源外は聞いている。
「今度は肉球などいかがであろうか?」
「肉球? 猫や犬の足の裏か?」
「さよう。あのぷにぷにとした弾力。香ばしい香り。今度はあれがいいです」
うっすらと頬を染めて桂が言い切った。
「肉球ねえ…」
源外は顎を撫でながら考えた。確かに猫や犬の足跡のスタンプを見ると可愛いと思う。桂が可愛い物好きであることは前回のソフトクリームセンサーでわかった。依頼主は桂なのだし彼の言うとおりにしてやろう。
「よっしゃ。今度のマークは肉球でいこう」
「やってくださるのか? 源外殿」
桂の顔がパアアと明るくなった。
「あたぼうよ。俺の手にかかりゃあ猫でも犬でも立派な肉球マークになるってもんさ」
源外は腕を叩いて請合う。
「それで敵と味方の区別はどうすんだ? 猫と犬。どっちを味方にどっちを敵にするんだ?」
聞いたら桂が眉を顰めた。
「そこが問題なのだ源外殿。猫も犬も悪者ではないし、どっちを敵キャラにしたら良いかわからないのだ」
「ふーん。俺なら犬の方が好きだから犬を味方にして猫を敵キャラにするけどな」
「源外殿!!」
何気なく言ったらすごい勢いで桂が叫んだ。
「猫と犬の区別をするなど…。それは酷い。猫だけをつまはじきにするなど酷いぞ。それはなんだ…、だからアレだとにかく酷いぞ。猫も犬もあんなに愛らしいではないか。猫だけ敵キャラになどできん」
桂の勢いに源外は幾分引きながら言った。
「わかったわかった。猫を敵キャラにするのは止めるからよ。だから落ち着けってヅラっち。おいらが悪かった」
桂は源外の謝る言葉も耳に入らないらしく、猫が良いか犬が良いかはたまた両方とも味方のキャラにするかと悩んでいる。
「うおおおお。猫の肉球か犬の肉球か。俺は…俺は…どうすれは良いのだぁぁぁぁっっっ!!!」
頭を抱える桂。そうしたら後から声がした。
「猫でも犬でもどっちでもイイじゃねーかバーカ」
ついでに桂の黒い頭が思いっきり引っぱたかれた。
「痛っ!! 何をする。狼藉者めが!!」
頭を押さえた桂が後を向くと銀時が立っていた。片袖抜いて懐手いつものごとく気だるそうに立っている。
「何をするのだ銀時。痛いではないか」
桂が食ってかかるとバッカじゃねェのてめェと言って今度はデコピンを喰らわせた。
「人ンちの店先でなーにをギャアギャア騒いでるンだてめェは。しかも猫だの犬だのからくり屋でする話じゃねーだろ。妄想電波で頭パーンってなったか? バカヅラ」
そう言ってからよォじーさんと源外に声をかけた。
「よお銀の字。今日は千客万来だな。どうしたい?」
源外が愛想よく答えた。バカヅラじゃない桂だと決まり文句を返す桂を無視して、銀時はバイクを押してからくり堂の中に入っていった。
「バイクのヤツがよォ。腹下してプスプスすかしっ屁をするのよ。ちょっと見てやってくんない?」
「なんだまたバイクの調子が悪いのか? もう寿命が来てんじゃねェのか? 修理するより買い換えた方が良くねェか?」
「買い換える金があるンならこんなシケた機械屋に来ねェって。何とかしてくれよじーさん。コイツは俺の相棒なんだよ修理してくれよ。アンタを江戸一番のからくり技師だと見込んで頼むよ」
泣きつく銀時にどれどれと源外は腰を上げた。バイクをしげしげと検分する。しばらくバイクを点検していた源外が顔を上げた。
「こりゃあ部品とっかえねェと駄目だな。部品代がかかるがいいよな」
「いいです。買い換えるよりアンタんトコのほうが安いから」
修理してくれそうだと知って銀時の声が弾んだ。ったく調子のいいヤツだよおめえはよと言いながら、源外は奥に部品を取りに行った。
「で、俺の愛車ちゃんはいいとして、てめェはジジイになんの用だったンだよ」
銀時が桂に向き直った。桂は頭を叩かれたり罵られたりした後なので憮然とした顔をしていた。
「おまえの知ったことではない。それに俺の依頼は超高性能なからくりだ。おまえのポンコツバイクとは違う」
「ナニコイツ。人の愛車つかまえてポンコツとか言ってくれちゃって。てめェの頭のほうがよっぽどポンコツだろうがコノヤロー」
「おまえのポンコツ頭には負けるがな」
「マテマテマテ。いつ俺の頭がポンコツになった? てめェの怪電波がつまったイカれた頭より俺の頭のほうがよっぽど遥かにこの上なくまともですゥ」
銀時の悪口を聞いて桂の臍が曲がった。
「ようし決めたぞ。猫と犬とどちらを敵キャラにするかで迷っていたが解決した。源外殿。味方は猫の肉球にして敵キャラは天パにしてくだされ。白髪の天パでお願いします」
「ちょおっと待て。そりゃあどういう意味だ。味方とか敵キャラとかってどういう意味だ」
桂はふふんという顔をした。
「さっきも言うたであろう。俺が源外殿に頼んでいるのは超高性能センサーだ。味方と敵の位置を把握し潜入捜査に使うセンサーだ。それにはそれぞれのマークを作って敵と味方を区別しなければならない。前回はソフトクリームにしたのだが、少々見分けるのが難しかったので今度はもっと簡単で明瞭な物をと思っていた。味方キャラは良いのだが、敵キャラを何にするか悩んでいたのだ。そうしたら妙案が浮かんでな。白髪天パを敵キャラにしようと考え付いた次第だ」
どうだすごいだろうと桂は胸を張る。一方の銀時はおもしろくない。
「敵キャラの白髪天パって俺のことじゃね? なんで味方キャラが肉球で敵キャラが俺なんだよ」
「なんだと? 敵キャラはおまえなのか? 否、俺は知らなんだ。敵キャラは白髪天パと言うただけで、おまえだとは一言も言っておらんぞ。なぜ自分だと思うのだ?」
食ってかかればしれっと返された。桂のとぼけた返答に銀時のこめかみがひきつる。
「この状況で白髪の天パが俺以外の誰がいるってんだよ。俺に決まってンだろ。ネチネチ根に持つタイプのてめェが考えそうなことだよな」
なんのことだ? 俺は知らぬぞと桂は涼しい顔。
「ったくコノヤロー。後で憶えてやがれ」
銀時は捨て台詞を吐いた。桂はしてやったりとくくくと含み笑いをしている。
「源外殿。やはり天パはやめておこう。今度はカツラと人間が一体化していたらやはりややこしくなるからな。カツラも天パでカツラを脱いだ人間も天パでは何がどうなっているのかわからなくなる」
桂は充分銀時に意趣返しができたので、天パ敵キャラ案を引っ込めた。
「そうなると敵キャラは何にしたら良いであろうな…」
また振り出しに戻る。思案顔になる桂。
「やはり可愛いキャラは外せぬな」
桂はまた猫が良いか犬が良いかと悩み出す。
「なんで可愛いキャラにこだわってんだよ」
銀時が聞けば桂ははあと溜息をついた。
「このセンサーを使うときは敵地に潜入している時だ。殺伐とした用途故マークだけでも可愛い物にしておきたいと思うであろう」
「ハイィィ? 重要なのソコォォォ?」
重要だぞと桂は大真面目に答える。
「つーかさつーかさ。センサー使ってる時って結構緊迫してる状況だよね。そんなときに可愛いキャラとか見てたら和ンじゃうんじゃねェの?」
「そこが良いのだ。どんなに緊迫した場面でも心にゆとりを持っていればどんなことも切り抜けられる。可愛いキャラはそのためにある」
「ハア…。そうですか…」
桂が断固と言い張るので銀時は引いた。
「センサーのキャラねェ…」
銀時も考える。別に銀時には関係ないことだが、桂のことになるといっしょになって考えてしまうのはいつものことだ。銀時は癖毛をかき回して考えていたが、ふと良い案が浮かんだ。
「お、コレ良くね? 俺イイ案考えたんじゃね?」
ほうどんな考えだと桂が銀時を見る。銀時はへへんと笑った。
「いいか。味方キャラはチョコレートパフェで、敵キャラはペンギンオバケ…」
最後まで言わないうちに桂の脳天チョップが銀時の頭に入った。
「イッデェェェェッッッッ!!! ナニすんだよてめェヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。それにペンギンオバケじゃないエリザベスだ」
「ペンギンオバケじゃないエリザベスだと言い直すってことはおめェだってアイツがペンギンだと思ってる証拠じゃねェか…。グエッ」
今度は腹に一発決められた。腹を抱える銀時と、ふんっとばかりに横を向く桂。
「てってめェ…。二度も殴りやがって…。後で憶えてろよ…」
「さあどうだかな。俺は忘れっぽいのでな」
ふふんと言い返してくる顔が憎らしい。
「それと敵キャラにエリザベスを使うなどもっての他だ。確かにエリザベスはとても愛らしいがな。敵キャラにはできぬ。俺の心がすさむ。それならやはり天パの方が良い」
「おめェナニ言っちゃってくれてンのォ? おめェ俺とあの未確認生命体とどっちが大事なんだよォォォ」
「貴様こそ何を言うか。比べることでもないであろう」
まったく馬鹿なヤツだと溜息をついた。
「エリザベスと張り合うな。おまえはおまえでエリザベスはエリザベスだ」
「なんか…。釈然としないんですケドォ」
「おまえが敵キャラにエリザベスを使うなどと言うからだ。安心しろ天パも使わぬから」
桂がふっと笑った。
「じゃあ。敵キャラはナニにするんだよ」
「そうだな。結局は○か△か□か×でも良いのだ。しかし可愛いマークにしたいと思うたからいろいろ考えてしまってな。おおそう言えば銀時の白髪天パも俺にとっては可愛い物だったのだな」
何故か感心したように言う桂に銀時がぷつっとキレた。
「てめェッッッ!!! やっぱ白髪天パは俺のことだったんじゃねェかッッッ! 今銀時の白髪天パって言ったよな」
しまったと口を手で押さえる桂。
「絶対使うなよ。俺の白髪天パをセンサーのマークにしたら唯じゃおかねェぞ。ペンギンを使え。いいな」
「だからペンギンではないエリザベスだと言うているであろう」
からくり堂の中でぎゃんぎゃんと言い合う銀時と桂。
「あのよォ。取り込み中のところすまねェケド。銀の字のバイク直ったぞ。代金は部品代と取替え料で一万に負けといてやるから、さっさとバイク持って出てってくんな。後ヅラっちもだ。センサーのマークは俺が適当にやっといてやるから今日は帰ェりな」
源外の言葉にいがみ合っていた二人はしんとする。
「おめえたちが仲が良いのはわかったからよ。だけどここでイチャイチャすんのはやめてくれ。どっか他の所でやってくんな。やかましくて敵わねえ」
銀時と桂はからくり堂を追い出されてしまった。
「ったくよォ。てめェがうるせーから源外のジジイが怒っちまったンだぞ」
銀時はバイクをのしのし押して歩く。
「何を言うか。おまえが騒ぐから源外殿は気分を害されたのだ」
おまえだおまえだと相手のせいにしながら夕暮れの町を歩く。
今日はすぐに家に帰らずにこのまま二人で飲み屋に行こうなんて互いに心の隅で思っていることはまだ知らない。
源外さんはヅラのこと何て呼ぶのかわからなくて考えました。銀ちゃんが銀の字だから、やっぱりあだ名的に呼んでるのかなと。それなら長谷川さんと同じヅラっちがいいかなと思ってそうしました。
「源外殿。桂ですがお邪魔してもよろしいだろうか?」
しかしガシャコンガシャコンの音は止まらない。源外はからくりに向かって一心不乱に作業をしている。 桂はもう一度、今度はもっと大きな声でおとないを告げた。
「源外殿。桂です。お仕事中申し訳ないがお邪魔してもよろしいだろうか?」
「あー? 何だって?」
ようやく来訪に気付いた源外が外を向いた。同時にガシャコンの音も止まる。
「よお。ヅラっちじゃねェか」
桂を見とめた源外はにかっと笑った。桂はからくり堂の中に入りつつ挨拶をした。
「お仕事中申し訳ない。しばしお時間を頂戴してもよろしいか?」
「そんな堅苦しい挨拶は抜きだ。今、お茶でも入れるからそこら辺に座ってくんな」
そう言うと、からくりの三郎にお茶二つくんなと言いつけた。
「それでどうしたい? 今日は」
桂に向き直る。
「いや、先日作っていただいた超高性能センサーのお礼に参ったのだ」
言いながら桂は持参した菓子折りを差し出した。
「礼なんていらねェのに。代金はしっかりもらったじゃねェか」
「それはそうなのだが、あのからくりは素晴らしい物であったのでな。お礼をと思うて。どうか納めてくださらんか?」
そこまで言うんじゃ遠慮なくもらうとするかと、源外は顔を綻ばせて菓子折りを受け取った。
「それでどうだったい? あのセンサーは。使ってみたのかい?」
三郎が持ってきたお茶を受け取って聞いた。
「先日の大江戸ヒルズでのテロ騒ぎはご存知か?」
桂もかたじけないと言って三郎からお茶を受け取った。
「大江戸ヒルズのテロ? あ~あそう言やどっかのテログループの馬鹿がセレブのガキ共を人質に取ったって話があったっけなあ」
桂は頷いた。
「俺はあの現場に居合わせて、テロを殲滅するために警察と協力をした。その時に源外殿に作っていただいた超高性能センサーが役に立った」
そうかいそうかいアレを使ったのか役に立って良かったと源外は上機嫌だ。
「素晴らしいセンサーでしたぞ。味方、敵の位置、見ている方向、どのルートを通ったら安全か一目でわかる優れ物。特にクリンの向きで見ている方向がわかるのは素晴らしい考えだ。さすがは源外殿の手による物」
「そんなに褒めるない。こっ恥ずかしいじゃねェか」
そう言いながらも満更でもない顔をしている。
「いつでも言ってくれ。入用な物があったらまた作ってやるからよ。ヅラっちはあちこちに潜入することが多いからな。あのセンサーを持ってれば万に一つしくじることもねェだろうよ」
「お心使い痛み入る。したが今度作っていただく時はマークを考え直さないとならない」
「マーク? マークって人間を表すマークのことかい?」
そうですと答えて桂は湯飲みをことりと傍らに置いた。
「可愛いマークが良いと思ってソフトクリームにしたのだが、あれは人間がウンコをするとクリーム部分とコーンの部分が分裂してウンコと人間に別れてしまったのだ。それで大層混乱した」
それを聞くと源外はガッハッハと大笑いした。
「スゲーだろ。ソフトクリームに見せかけて人間とウンコに分けておいたんだ。だからウンコをするとすぐにわかるようになってたのさ」
江戸髄一と言われるからくり技師はまた余計な悪戯をほどこしたらしい。そのお陰で緊迫した事件の最中にそこら中にソフトクリームのクリーム部分がころがってどれが人間なのかウンコなのかわからないという事態に陥った。
「ううむ。源外殿の遊び心には感服する」
「そうだろ。人間どんな時も、どんな窮地に陥っていたとしても遊び心を忘れちゃいけねえ」
ふんふんと桂は感心していた。
「それで? 今度はどんなのがいいんだ? ソフトクリームは一回使ったから他のヤツがいいのか?」
「そうだな。ここへ来る道すがら考えていたのだが、やはり殺伐とした用途に使うものであれば可愛いマークにしておきたい」
うんうんと源外は聞いている。
「今度は肉球などいかがであろうか?」
「肉球? 猫や犬の足の裏か?」
「さよう。あのぷにぷにとした弾力。香ばしい香り。今度はあれがいいです」
うっすらと頬を染めて桂が言い切った。
「肉球ねえ…」
源外は顎を撫でながら考えた。確かに猫や犬の足跡のスタンプを見ると可愛いと思う。桂が可愛い物好きであることは前回のソフトクリームセンサーでわかった。依頼主は桂なのだし彼の言うとおりにしてやろう。
「よっしゃ。今度のマークは肉球でいこう」
「やってくださるのか? 源外殿」
桂の顔がパアアと明るくなった。
「あたぼうよ。俺の手にかかりゃあ猫でも犬でも立派な肉球マークになるってもんさ」
源外は腕を叩いて請合う。
「それで敵と味方の区別はどうすんだ? 猫と犬。どっちを味方にどっちを敵にするんだ?」
聞いたら桂が眉を顰めた。
「そこが問題なのだ源外殿。猫も犬も悪者ではないし、どっちを敵キャラにしたら良いかわからないのだ」
「ふーん。俺なら犬の方が好きだから犬を味方にして猫を敵キャラにするけどな」
「源外殿!!」
何気なく言ったらすごい勢いで桂が叫んだ。
「猫と犬の区別をするなど…。それは酷い。猫だけをつまはじきにするなど酷いぞ。それはなんだ…、だからアレだとにかく酷いぞ。猫も犬もあんなに愛らしいではないか。猫だけ敵キャラになどできん」
桂の勢いに源外は幾分引きながら言った。
「わかったわかった。猫を敵キャラにするのは止めるからよ。だから落ち着けってヅラっち。おいらが悪かった」
桂は源外の謝る言葉も耳に入らないらしく、猫が良いか犬が良いかはたまた両方とも味方のキャラにするかと悩んでいる。
「うおおおお。猫の肉球か犬の肉球か。俺は…俺は…どうすれは良いのだぁぁぁぁっっっ!!!」
頭を抱える桂。そうしたら後から声がした。
「猫でも犬でもどっちでもイイじゃねーかバーカ」
ついでに桂の黒い頭が思いっきり引っぱたかれた。
「痛っ!! 何をする。狼藉者めが!!」
頭を押さえた桂が後を向くと銀時が立っていた。片袖抜いて懐手いつものごとく気だるそうに立っている。
「何をするのだ銀時。痛いではないか」
桂が食ってかかるとバッカじゃねェのてめェと言って今度はデコピンを喰らわせた。
「人ンちの店先でなーにをギャアギャア騒いでるンだてめェは。しかも猫だの犬だのからくり屋でする話じゃねーだろ。妄想電波で頭パーンってなったか? バカヅラ」
そう言ってからよォじーさんと源外に声をかけた。
「よお銀の字。今日は千客万来だな。どうしたい?」
源外が愛想よく答えた。バカヅラじゃない桂だと決まり文句を返す桂を無視して、銀時はバイクを押してからくり堂の中に入っていった。
「バイクのヤツがよォ。腹下してプスプスすかしっ屁をするのよ。ちょっと見てやってくんない?」
「なんだまたバイクの調子が悪いのか? もう寿命が来てんじゃねェのか? 修理するより買い換えた方が良くねェか?」
「買い換える金があるンならこんなシケた機械屋に来ねェって。何とかしてくれよじーさん。コイツは俺の相棒なんだよ修理してくれよ。アンタを江戸一番のからくり技師だと見込んで頼むよ」
泣きつく銀時にどれどれと源外は腰を上げた。バイクをしげしげと検分する。しばらくバイクを点検していた源外が顔を上げた。
「こりゃあ部品とっかえねェと駄目だな。部品代がかかるがいいよな」
「いいです。買い換えるよりアンタんトコのほうが安いから」
修理してくれそうだと知って銀時の声が弾んだ。ったく調子のいいヤツだよおめえはよと言いながら、源外は奥に部品を取りに行った。
「で、俺の愛車ちゃんはいいとして、てめェはジジイになんの用だったンだよ」
銀時が桂に向き直った。桂は頭を叩かれたり罵られたりした後なので憮然とした顔をしていた。
「おまえの知ったことではない。それに俺の依頼は超高性能なからくりだ。おまえのポンコツバイクとは違う」
「ナニコイツ。人の愛車つかまえてポンコツとか言ってくれちゃって。てめェの頭のほうがよっぽどポンコツだろうがコノヤロー」
「おまえのポンコツ頭には負けるがな」
「マテマテマテ。いつ俺の頭がポンコツになった? てめェの怪電波がつまったイカれた頭より俺の頭のほうがよっぽど遥かにこの上なくまともですゥ」
銀時の悪口を聞いて桂の臍が曲がった。
「ようし決めたぞ。猫と犬とどちらを敵キャラにするかで迷っていたが解決した。源外殿。味方は猫の肉球にして敵キャラは天パにしてくだされ。白髪の天パでお願いします」
「ちょおっと待て。そりゃあどういう意味だ。味方とか敵キャラとかってどういう意味だ」
桂はふふんという顔をした。
「さっきも言うたであろう。俺が源外殿に頼んでいるのは超高性能センサーだ。味方と敵の位置を把握し潜入捜査に使うセンサーだ。それにはそれぞれのマークを作って敵と味方を区別しなければならない。前回はソフトクリームにしたのだが、少々見分けるのが難しかったので今度はもっと簡単で明瞭な物をと思っていた。味方キャラは良いのだが、敵キャラを何にするか悩んでいたのだ。そうしたら妙案が浮かんでな。白髪天パを敵キャラにしようと考え付いた次第だ」
どうだすごいだろうと桂は胸を張る。一方の銀時はおもしろくない。
「敵キャラの白髪天パって俺のことじゃね? なんで味方キャラが肉球で敵キャラが俺なんだよ」
「なんだと? 敵キャラはおまえなのか? 否、俺は知らなんだ。敵キャラは白髪天パと言うただけで、おまえだとは一言も言っておらんぞ。なぜ自分だと思うのだ?」
食ってかかればしれっと返された。桂のとぼけた返答に銀時のこめかみがひきつる。
「この状況で白髪の天パが俺以外の誰がいるってんだよ。俺に決まってンだろ。ネチネチ根に持つタイプのてめェが考えそうなことだよな」
なんのことだ? 俺は知らぬぞと桂は涼しい顔。
「ったくコノヤロー。後で憶えてやがれ」
銀時は捨て台詞を吐いた。桂はしてやったりとくくくと含み笑いをしている。
「源外殿。やはり天パはやめておこう。今度はカツラと人間が一体化していたらやはりややこしくなるからな。カツラも天パでカツラを脱いだ人間も天パでは何がどうなっているのかわからなくなる」
桂は充分銀時に意趣返しができたので、天パ敵キャラ案を引っ込めた。
「そうなると敵キャラは何にしたら良いであろうな…」
また振り出しに戻る。思案顔になる桂。
「やはり可愛いキャラは外せぬな」
桂はまた猫が良いか犬が良いかと悩み出す。
「なんで可愛いキャラにこだわってんだよ」
銀時が聞けば桂ははあと溜息をついた。
「このセンサーを使うときは敵地に潜入している時だ。殺伐とした用途故マークだけでも可愛い物にしておきたいと思うであろう」
「ハイィィ? 重要なのソコォォォ?」
重要だぞと桂は大真面目に答える。
「つーかさつーかさ。センサー使ってる時って結構緊迫してる状況だよね。そんなときに可愛いキャラとか見てたら和ンじゃうんじゃねェの?」
「そこが良いのだ。どんなに緊迫した場面でも心にゆとりを持っていればどんなことも切り抜けられる。可愛いキャラはそのためにある」
「ハア…。そうですか…」
桂が断固と言い張るので銀時は引いた。
「センサーのキャラねェ…」
銀時も考える。別に銀時には関係ないことだが、桂のことになるといっしょになって考えてしまうのはいつものことだ。銀時は癖毛をかき回して考えていたが、ふと良い案が浮かんだ。
「お、コレ良くね? 俺イイ案考えたんじゃね?」
ほうどんな考えだと桂が銀時を見る。銀時はへへんと笑った。
「いいか。味方キャラはチョコレートパフェで、敵キャラはペンギンオバケ…」
最後まで言わないうちに桂の脳天チョップが銀時の頭に入った。
「イッデェェェェッッッッ!!! ナニすんだよてめェヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。それにペンギンオバケじゃないエリザベスだ」
「ペンギンオバケじゃないエリザベスだと言い直すってことはおめェだってアイツがペンギンだと思ってる証拠じゃねェか…。グエッ」
今度は腹に一発決められた。腹を抱える銀時と、ふんっとばかりに横を向く桂。
「てってめェ…。二度も殴りやがって…。後で憶えてろよ…」
「さあどうだかな。俺は忘れっぽいのでな」
ふふんと言い返してくる顔が憎らしい。
「それと敵キャラにエリザベスを使うなどもっての他だ。確かにエリザベスはとても愛らしいがな。敵キャラにはできぬ。俺の心がすさむ。それならやはり天パの方が良い」
「おめェナニ言っちゃってくれてンのォ? おめェ俺とあの未確認生命体とどっちが大事なんだよォォォ」
「貴様こそ何を言うか。比べることでもないであろう」
まったく馬鹿なヤツだと溜息をついた。
「エリザベスと張り合うな。おまえはおまえでエリザベスはエリザベスだ」
「なんか…。釈然としないんですケドォ」
「おまえが敵キャラにエリザベスを使うなどと言うからだ。安心しろ天パも使わぬから」
桂がふっと笑った。
「じゃあ。敵キャラはナニにするんだよ」
「そうだな。結局は○か△か□か×でも良いのだ。しかし可愛いマークにしたいと思うたからいろいろ考えてしまってな。おおそう言えば銀時の白髪天パも俺にとっては可愛い物だったのだな」
何故か感心したように言う桂に銀時がぷつっとキレた。
「てめェッッッ!!! やっぱ白髪天パは俺のことだったんじゃねェかッッッ! 今銀時の白髪天パって言ったよな」
しまったと口を手で押さえる桂。
「絶対使うなよ。俺の白髪天パをセンサーのマークにしたら唯じゃおかねェぞ。ペンギンを使え。いいな」
「だからペンギンではないエリザベスだと言うているであろう」
からくり堂の中でぎゃんぎゃんと言い合う銀時と桂。
「あのよォ。取り込み中のところすまねェケド。銀の字のバイク直ったぞ。代金は部品代と取替え料で一万に負けといてやるから、さっさとバイク持って出てってくんな。後ヅラっちもだ。センサーのマークは俺が適当にやっといてやるから今日は帰ェりな」
源外の言葉にいがみ合っていた二人はしんとする。
「おめえたちが仲が良いのはわかったからよ。だけどここでイチャイチャすんのはやめてくれ。どっか他の所でやってくんな。やかましくて敵わねえ」
銀時と桂はからくり堂を追い出されてしまった。
「ったくよォ。てめェがうるせーから源外のジジイが怒っちまったンだぞ」
銀時はバイクをのしのし押して歩く。
「何を言うか。おまえが騒ぐから源外殿は気分を害されたのだ」
おまえだおまえだと相手のせいにしながら夕暮れの町を歩く。
今日はすぐに家に帰らずにこのまま二人で飲み屋に行こうなんて互いに心の隅で思っていることはまだ知らない。
源外さんはヅラのこと何て呼ぶのかわからなくて考えました。銀ちゃんが銀の字だから、やっぱりあだ名的に呼んでるのかなと。それなら長谷川さんと同じヅラっちがいいかなと思ってそうしました。
PR