「銀さん。桂さん。もう二人とも止めてくださいよ」
木刀と真剣を構える二人を情けない気持ちで新八が止める。真面目で勤勉
な少年の周りにるのは残念なことにダメな大人ばかり。中でもこの二人は
侍として彼が目指すものを多く持っているというのに、普段はダメなとこ
ろばかりが目に付くという本当に困った大人たちだ。
まさか室内で打ち合いを始めるとは思えないけど、見境いなくなったこの
二人は恐い。恐いくらいに強い。家が破壊される上に二人とも無傷ではす
むまい。
こうなったら止められるのはお登勢しかいない。お登勢を呼んでこようか
と思っていたら、タタタタと軽やかな足音が近づいてきた。小さな影が横
を通ったと思ったら、それは銀時の背後からドンッと勢い良くぶつかっ
た。
「オワッ!! ナッナンだ?」
不意をつかれて銀時がよろける。
「父上に何をするんだ? 父上を苛めるな!!」
銀時の白い着物を握りしめて子供が叫ぶ。
「エ? 父上をイジメ…?」
しがみついている子供を見下ろす銀時。それをぎっと睨みつけまた叫ぶ。
「父上を苛めるなんて卑怯だぞ。おまえそれでも侍か!?」
「ハィィ?」
黒く円らな目に涙を一杯にためて、それでも精一杯に睨みつけて声を張り
上げる子供に力が抜ける。
「俺は侍ですケド。父上を苛めてもいないし卑怯でもないンですケド」
ぼそぼそと呟く声は子供には届いていないらしい。
「童!!」
そこへ桂が刀を放り出し割って入る。
「父上!!」
子供はすごい勢いで銀時を押しのけると桂にしがみついた。それを桂はお
およしよしと抱きしめる。
「父を案じてきてくれたのか? すまなかったな」
オイィィ。この人父って認めちゃったよ。父って自分のこと呼んじゃって
るよ。
「したが俺は苛められていたわけではないぞ。俺はこの天パに苛められる
ような軟弱者ではない。これはアレだ。どちらの刀がカッコイイか比べて
いただけだ」
どんな比べっこ?
「と言うかこの天パとか言うなッ」
銀時が文句をつけてもさらっと無視。父と子の世界に浸っている二人。
「もう泣くな。侍の子がこんな些細なことで泣くものではない」
そう言いながらまろやかな頬を滑る大粒の涙を袂で拭ってやる桂。
「あ~。銀サンなんだか疲れちまったィ。なんかこうやるせない疲労感っ
つーの?」
ぶつぶつ言いながらよろよろと長椅子に座り込む銀時。
「疲れたのは僕のほうですよ」
新八も同じく長椅子に座り込む。
二人ともどんよりとした目でにわか父子を眺めやる。
ひとしきり慰めて子供の涙がようやく止まった。
「という訳で済まぬがしばらく小助を預かってはくれまいか?」
「あ?」
「俺はこの後出かけなければならぬ用がある。しかし子供は連れて行け
ぬ。故に夕方までこの子を預かってくれ」
「ナニ言っちゃってくれてンのォ? ナンだっててめェはそうやって次か
ら次へと面倒な事を持ってくるンだよ。というか小助? ナニが小助?
どうして小助?」
「この子の名だ」
「だからなんで小助なの」
「小さい頃の晋助に似た童。小さい晋助だから小助だ」
「なあ小助」「はい父上」とにっこり微笑みあう似非父子。
「小助だってさ。それでいいのかよおめェ」
銀時が話しかけると子供がぎっと振り向いた。
「俺は小助だ。父上がつけてくれた名前だ。文句があるのか天パ」
まなじりを吊り上げて食ってかかる小助。敵意むき出しの様子に銀時のこ
めかみが引きつる。
「こンのクソガキ~」
殴ってやろうと思っていたらそれよりも早く新八が小助を引っさらった。
「はいはいはい。小助君。お兄ちゃんといっしょにあっちに行こうね~。
桂さん小助君のことは任せてください。責任をもってうちで預かりますか
ら」
おお新八君かたじけないと礼を言う桂。
ナニ勝手なこと言ってンだと怒る銀時。
「まあまあいいじゃないですか。銀さん。どうせ仕事もなくて暇にしてた
んですから」
さあなにして遊ぼうか? それともおやつにする? 小助君と新八は早く
も得たいの知れない子供に馴染んでいる。新八が万事屋で一番身に付けた
物は順応性の高さかもしれない。
いつの間にやら戻ってきていた神楽もいっしょになって小助を構ってい
る。
銀時は大きな溜息をつくとどっかりと椅子に座った。
「すまぬな銀時。礼はするから」
「あー? もういいよ。礼なンかいらねーよ。あいつらが適当に子守する
だろ」
「そうか。では土産を買ってこよう。小助を頼んだぞ」
そう言って出て行く桂にヒラヒラと手を振った。
おやつを食べ始めた三人を横目で眺める。見れば見るほど子供は晋助に似
ていた。
小さい晋助だから小助だと桂は言ったが、違う見方をすれば小太郎の小と
晋助の助を取って小助と思えなくもない。それでは丸っきり桂と高杉の子
供のようではないか。
桂は男だ。子を産めるはずがない。まかり間違って高杉と肉体関係を持つ
ことがあったにしても子を授かるはずがない。でも子供は桂を父上と呼
ぶ。
「晋助本人だったりしてね…」
突然思い浮かんだ考えに愕然とした。
続きました。でもこれオチはあるのだろうか。