忍者ブログ
日々諸々
H21年1月30日登録
 116 |  115 |  114 |  113 |  112 |  111 |  110 |  109 |  108 |  107 |  106 |
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

桂誕生日を引っ張っております。お祝いできるのが嬉しくて仕方がないの

です。高杉はどうやってお祝いするのかなと考えて思いついたので、小噺

にします。



十分程で日付が変わるという頃、船は江戸の上空に差し掛かった。

はるか下にはターミナルのライトを中心とした灯が、雨に滲んで煙るよう

に見える。一際明るいところが恐らく眠らない街、かぶき町。現在二人の

幼馴染みが暮らす場所。

高杉は船の後方に立ち、一つしかない目でその様子を眺めていた。

戦が終わり随分と時が経った。あのころ近くにいた一人は宇宙へ行き、

自分も地上と空を行ったり来たり。仲が良いのか悪いのか良くわからな

い、それでいて誰よりも互いを理解し信頼し合っている幼馴染みの二人は

今もこの地に張り付いている。皆、それぞれの信念それぞれのやり方を通

そうとして。

一番近い立場にいると思っていた彼は先ごろ方針を大きく変えてしまっ

た。その事が自分たちの間にどんな事態を招くかは予想がつく。恐らくは

軋轢、決別。そんな言葉が頭に浮かぶ。

故郷の萩で兄弟のように育ったころがなんと遠い昔になってしまったこと

か。高杉にとって子供の頃の彼は憧れの対象だった。年上で賢く剣の才能

があり、そして見目麗しい彼が好きで好きでたまらなかった。彼と対等で

ありたいと、精一杯背伸びしていた。いつか追いつき追い越して彼を守れ

る男になりたいと思っていた。しかし後から生まれた自分には年齢で追い

つくことは永久にできず、背の高さも彼を追い越すことができなかった。

そして今は、彼との距離が開いていくのが手に取るようにわかる。穏健派

としての彼と過激派としての自分。いずれぶつかる日が来るだろうと胸の

奥がちりちりと焼ける。

つうっと前髪にたまった雫が落ちていった。

「てめェの誕生日はいつも雨だな」

梅雨時に誕生日を迎えるため、子供の頃から必ずと言っていいほどその日

は雨降りだったように思う。

「辛気くせェてめェには似合いか?」

くくっと笑うと袂に手を突っ込んでかさこそと中を探った。掴み出したの

は小さな紙飛行機の束だった。もう片方の袂も探り同じ物を取り出す。

両の手の平に零れんばかりの紙飛行機をしばらくの間見つめた。それから

空中へとそれらを放り投げた。彼の年と同じ数の紙飛行機がはらはらと江

戸の空に散っていく。

今でも彼の手の暖かさや向けてくれた目の優しさを憶えている。どんなに

立場を違えても根っこのところは変わらない。今でも彼に焦がれ続けてい

る。だから攘夷を捨てたくせに彼とヨリを戻したあの白髪天パの気持ちは

良くわかる。ヤツも捨てられないのだ焦がれているのだ。幼い頃からずっ

と傍にあった暖かさや優しさを。

「アイツも相当のバカだが、俺も大概バカだな」

自嘲気味に笑った。

「晋助。風邪を引くでござるよ」

声と共に傘がさしかけられる。

「万斉か…」

「何をしているでござるか? こんなところで。木島が探していたでござ

るよ」

高杉は向こうを向いたまま答えない。

「ま、こんな雨の夜は誰でもセンチメンタルな気分になるでござる」

「気色の悪ィこと言ってると斬るぞ」

「それは御免こうむる」

そう言ってああ、そうであったなと続けた。

「今日は彼の人の誕生日でござったな」

何も言わない高杉。

「祝いの電報でも打ち申そうか?」

「ふん。そんなモンに何の意味がある」

祝いを言うなら直接言ってやる。この手で捕まえてこの腕に閉じ込めて、

俺だけを映させて俺だけを想わせる。いつかいずれ必ず。

船は江戸を離れようとしていた。高杉も船室へと向かう。

祝い代わりの紙飛行機はとっくに見えなくなっていた。







一つくらい紙飛行機が桂の家に落ちていたりして。折り方に特徴があっ

て、(昔萩っ子の間で流行っていたとか)だれが作ったかわかる桂。

というより、高杉が船の上でヅラを思っていたとき、ご本人は銀ちゃんと

お布団の中だったと思われるので不憫だなうちの晋助。

PR
Copyright ©  日々諸々  All Rights Reserved.
*Material by Pearl Box  * Template by tsukika
忍者ブログ [PR]
Admin ♥ Write ♥ Res
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
糸巻 映
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
P R