小噺

ＷＪ３１号～３３号をもとに小噺です。ネタばれになりますので、未読の

方はご注意を。


拍手ありがとうございました。いつも励みになっております。続きも頑張

ります！

出勤してくると万事屋は静かだった。二人ともまだ眠っているらしい。

（まあ仕方がないか。昨日の大騒動の後だものね。そういう僕だって

体のあちこちが痛いよ）

荷物を長椅子に置いて、お湯を沸かしておいてやろうと台所に向かう。

するとひょこっと桂が台所から現れた。

「桂さん」

「お早う新八君」

着流しにたすきがけをしているところを見ると、朝ごはんの支度をしてい

たようだ。

「昨日は災難だったな。したがお互い無事でなによりだ」

「そうですね…」

人気投票による順位争いをした大騒ぎを思い新八は力なく笑った。

「桂さんうまく逃げられたんですね。気が付いたら姿が見えなかったので

どうしたのかと思ってましたよ」

「ふふん。芋侍どもに捕まる俺ではない」

いや捕まってたよねアンタと胸の中でつっこむ。

「そうだ桂さん。桂さんに差し上げたい物があって持ってきているんで

す」

そう言って荷物の中から新八が取り出したものを見て桂が目を丸くする。

「新八君。これは…」

「かわいいでしょう？　猫の手です」

それは猫の手を模したぬいぐるみのようなもの。指の一本一本と手の平に

きちんと肉球もついている。そして手の平の真ん中に「通」と言う字が

縫い取りしてあった。

「お通ちゃんの応援グッズなんです。こうやって手にはめて使うんです

よ」

新八は猫手を手にはめてちょいちょいと左右に振ってみせた。

「おおお…」

桂は目をまん丸くしたまま感心している。

「これ桂さんに差し上げます」

猫手をはずすと桂に差し出した。

「え？　でもこれは新八君の大切なものであろう？　これがなくてはお通

殿の応援に差し障りがあるのではないか？」

「だいじょうぶですよ。僕はもう一つ持ってますから。これはライブの抽

選で当たったものなんです」

遠慮する桂に猫手を持たせる。

「手触りが良いでしょう？　特に肉球のところなんてふわふわ」

桂は猫手をじーーっと見つめている。

「これからは肉球が触りたくなったらそれを触ってくださいね」

そう言われて桂が顔を上げた。

「もう自転車でサファリパークに行くなんて危ないまねをしないでくださ

いよ」

「新八君…」

「桂さんが怪我をすると銀さんが落ち込みますから」

あの事件以来、桂が怪我をすることに銀時は神経質になっている。

「昨日も桂さんのこと気にしてましたよ」

あんな騒動があれば真っ先に引っ掻き回す銀時が妙に大人しかったのは

桂が怪我をしていたから。

「わかった。これからは自重しよう」

桂は神妙に言った。

「そうしてくださいね。あ、そうそう。銀さん夕べは拗ねていませんでし

たか？」

昨日の騒動の現場から逃走した桂が夜になって万事屋を訪れて泊まったの

だろうことは想像がつく。銀時と桂の仲は承知しているので驚かない。

「あのラブホで桂さんは土方さんと仲良くしていたから」

銀時は割りとやきもち焼きなのだ。怪我をしてるは手錠はかけられてるは

おまけに土方と意気投合してるはで銀時は内心ヤキモキしていたはずだ。

「そうか。銀時は拗ねていたのか。だから夕べはいつもよりもしつこかっ

たのだな」

「オイィィ。誰もアンタらの赤裸々な夜の生活の話なんて聞いてないか

ら」

まったくこの人は。澄ました顔をしてさらりととんでもないことを言い出

すのだ。

「心配をかけてすまなかったな新八君。これからはいろいろと気をつけ

る。この猫手も大切にしよう」

そう言ってしみじみと猫手をなでる桂。もふもふで気持ちが良いと目を細

めている様を見てつくづく可愛い人だと思った。

テロリスト、狂乱の貴公子だのと物騒な名前がついた実際物騒な人だけれ

ど、こんなに無防備で可愛い一面があるのだ。だから銀時は愛してやまな

いのだろうと、可愛くて手放せないのだろうと思う。

「ありがとう新八君」

にっこりと微笑まれて顔がかあっと熱くなった。

そのころ和室の襖の向こうでは。

（新八のやつなに言っちゃってくれてンだか。というかものっそ出て行き

にくい雰囲気なんですケド。べっ便所。便所に行きてェ。しっこが漏れる

～～）

出るに出られない銀時が窮地に陥っていた。