日々諸々
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5/16、5/27、7/26の小噺の続きです。(父上と小助の話)
銀時は欠伸を噛み殺しながら朝食の席に向っていた。向い側に座っている
桂がいちいちうるさくてイラッとくる。欠伸をするな胡坐をかくな頬杖を
つくな箸と茶碗をきちんと持て。
「っせーな。てめェは俺のかーちゃんか」
「かーちゃんじゃない。桂だ。いい大人がだらしない。小助が見ている
ぞ。しゃきっとせんか」
「銀サンは寝不足なんですー。というかどいつのせいで寝不足になってる
と思ってンだ」
夕べは小助を挟んで桂と三人で川の字で寝た。ガキが寝たら二人で居間に
移動しようという目論見はおしゃかになった。何故なら小助が桂の着物の
袖をつかんで離さなかったのだ。そして偶然なのか故意なのか、銀時が近
寄ってくるとバタリと寝返りをして、その拍子に手なり足なりが飛んでき
て夜中痛い思いをした。
「こいつのせいで碌々眠れなかったンだよ」
ジロリと睨むが小助はご飯をかきこんでいて聞こえないふりをかましてい
る。
「さすがの銀ちゃんもガキには勝てなかったアルね。小助もなかなか見所
あるネ。私の子分にしてやるヨ。親子でまとめて面倒みるアル」
神楽がキシシと笑う。よろしく頼むリーダーとマヌケな返答をする桂に
ますますイラッとした。
「で、ホントにコイツどうする気なの?」
「恐らく迷子になったのであろう。昨日小助と会ったところから探してみ
ようと思っている。それと一応警察に届けたほうが良いのであろうな」
「あー。警察ねェ…」
めんどくせーなオイと思う。お尋ね者の桂が警察に出向くことはできな
い。となると俺が足を運ばなきゃならないのかこんなかわいげのないガキ
のために一文の得にもなりゃしないのに。いや首尾良く運べば小助の親か
ら謝礼が出るかもしれない。そう思ったら少しやる気が出た。
銀時と桂が小助の身の振り方を相談していると、当の小助が桂の袖をちょ
いちょいと引いた。
「ん? なんだ小助?」
優しく問いかける桂。小助がかわいくて堪らないといった表情に銀時はむ
かっ腹がたつ。いちいちンな優しい顔してンじゃねーと怒鳴りたくなるの
だ。小助はそんな銀時をちらりと見てふんと鼻であしらった。
「こンのガキ…」
今度こそ殴ってやると銀時がこぶしを固めている隙に、小助は桂の懐に抱
きついた。
「どうしたのだ? 小助。侍の子がそのように甘えるものではないぞ」
そう言いながらよしよしと小さな背中をあやす。小助はしばしの間しがみ
ついて、桂の良い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「父上」
顔を上げた小助が桂を見つめる。
「少しの間だけれど、父上の子供になれて嬉しかった」
「小助?」
「俺は家に帰る」
「自分の家がわかるのか?」
小助はこっくりと頷いた。
「ならばおまえの家まで送っていこう。ご両親もさぞ心配しておられるだ
ろうから、お預かりしていたことを話さなければ」
桂が言うと小助は首を振った。
「もうじき迎えが来る。だから送ってもらわなくても平気だ」
桂が戸惑い気味に銀時を見る。
「迎えが来るってンならだいじょぶデショ」
「…そうだな…」
銀時が言うと寂しそうに桂が答えた。
昼近くになって小助が帰ることになった。お世話になりましたと最後にき
ちんと挨拶をする小助。
「小助」
玄関を出て行こうとするのを桂が呼び止めた。振り向いた小助に向い膝を
つく。黒く丸い頭を優しく撫でて頬を手で包み円らな瞳と目を合わせた。
「小助。短い間であったがおまえと過ごせて父も楽しかった。父上と呼ば
れてこそばゆかったが嬉しかったぞ」
小助は神妙な面持ちで聞いている。
「これからおまえがどんな道を歩もうとも父はいつでもおまえのことを
案じている」
円らな瞳が見張られた。
「おまえの行く先がおまえにとって良き道であるよう、幸多からんことを
祈っている」
小助の唇が何か言いたそうに開いた。しかし何も言わず目を伏せると小助
は扉を開けて出て行った。
「……晋助…」
小さな桂の呟きはすぐ横にいた銀時にだけ届いた。
一晩過ごした二階屋を見上げた。『万事屋銀ちゃん』の看板に目を眇め
る。ふざけた名前だ天パのくせにと思った。でも、あそこは暖かいところ
だったと思う。騒々しくバカバカしいが暖かいところだったと。銀時がや
っとの思いで手に入れて、桂が守ろうとしている場所。自分には関係ない
と思い直し歩き出した。
しばらく歩くと昨日桂と会ったところに差し掛かった。そこには背の高い
男が立っている。小助をみとめるとその男は並んで歩き出した。
「気がすんだでござるか?」
声をかけるが小助は返事をしない。
「こんな回りくどいやり方をせずとも、傍にいたいならさろうてくれば
良いのでござる。そうすればお主のことだけを見る人形にする方法はいく
らでもあるというもの」
相変わらず何も言わない小助に男ははあと溜息をついた。
「そんなものでは満足しないでござるなお主は」
「わかってんなら馬鹿馬鹿しいことを言うな」
高い子供の声には似つかわしくない口調で答える小助。
「人形なんか置いといたって意味がねェ」
「まったく我侭な大将でござる」
男は苦笑した。
「それで、彼らには気付かれなかったでござるか? 高杉晋助と」
「さてな」
素っ気無く答えた。気付かれていてもそうでなくてもどっちでも構わな
い。彼らが自分を捕まえることは不可能なのだから。だけど別れ際の桂の
言葉が胸を刺す。
(アンタは気付いていたのか? だからあんなことを言ったのか?)
桂の心からの餞の言葉。本当に小助という子供だったなら良かった。彼の
言葉を素直に受け止めることができただろうに。
自分は変わらない。自分で敷いた道を突き進むだけ。そこに何が立ち塞が
ろうと壊して進むだけ。
(甘っちょろい言葉なんぞいらねェ)
小助という名も餞の言葉も万事屋に置いてきた。かりそめの父でも子でも
ない。今からはまた敵同士。
「さっさと帰るぞ。万斉」
「承知」
万事屋ははるか後ろになった。
これで父上と小助の小噺は終わります。読んで下さってありがとうござい
ました。
桂がいちいちうるさくてイラッとくる。欠伸をするな胡坐をかくな頬杖を
つくな箸と茶碗をきちんと持て。
「っせーな。てめェは俺のかーちゃんか」
「かーちゃんじゃない。桂だ。いい大人がだらしない。小助が見ている
ぞ。しゃきっとせんか」
「銀サンは寝不足なんですー。というかどいつのせいで寝不足になってる
と思ってンだ」
夕べは小助を挟んで桂と三人で川の字で寝た。ガキが寝たら二人で居間に
移動しようという目論見はおしゃかになった。何故なら小助が桂の着物の
袖をつかんで離さなかったのだ。そして偶然なのか故意なのか、銀時が近
寄ってくるとバタリと寝返りをして、その拍子に手なり足なりが飛んでき
て夜中痛い思いをした。
「こいつのせいで碌々眠れなかったンだよ」
ジロリと睨むが小助はご飯をかきこんでいて聞こえないふりをかましてい
る。
「さすがの銀ちゃんもガキには勝てなかったアルね。小助もなかなか見所
あるネ。私の子分にしてやるヨ。親子でまとめて面倒みるアル」
神楽がキシシと笑う。よろしく頼むリーダーとマヌケな返答をする桂に
ますますイラッとした。
「で、ホントにコイツどうする気なの?」
「恐らく迷子になったのであろう。昨日小助と会ったところから探してみ
ようと思っている。それと一応警察に届けたほうが良いのであろうな」
「あー。警察ねェ…」
めんどくせーなオイと思う。お尋ね者の桂が警察に出向くことはできな
い。となると俺が足を運ばなきゃならないのかこんなかわいげのないガキ
のために一文の得にもなりゃしないのに。いや首尾良く運べば小助の親か
ら謝礼が出るかもしれない。そう思ったら少しやる気が出た。
銀時と桂が小助の身の振り方を相談していると、当の小助が桂の袖をちょ
いちょいと引いた。
「ん? なんだ小助?」
優しく問いかける桂。小助がかわいくて堪らないといった表情に銀時はむ
かっ腹がたつ。いちいちンな優しい顔してンじゃねーと怒鳴りたくなるの
だ。小助はそんな銀時をちらりと見てふんと鼻であしらった。
「こンのガキ…」
今度こそ殴ってやると銀時がこぶしを固めている隙に、小助は桂の懐に抱
きついた。
「どうしたのだ? 小助。侍の子がそのように甘えるものではないぞ」
そう言いながらよしよしと小さな背中をあやす。小助はしばしの間しがみ
ついて、桂の良い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「父上」
顔を上げた小助が桂を見つめる。
「少しの間だけれど、父上の子供になれて嬉しかった」
「小助?」
「俺は家に帰る」
「自分の家がわかるのか?」
小助はこっくりと頷いた。
「ならばおまえの家まで送っていこう。ご両親もさぞ心配しておられるだ
ろうから、お預かりしていたことを話さなければ」
桂が言うと小助は首を振った。
「もうじき迎えが来る。だから送ってもらわなくても平気だ」
桂が戸惑い気味に銀時を見る。
「迎えが来るってンならだいじょぶデショ」
「…そうだな…」
銀時が言うと寂しそうに桂が答えた。
昼近くになって小助が帰ることになった。お世話になりましたと最後にき
ちんと挨拶をする小助。
「小助」
玄関を出て行こうとするのを桂が呼び止めた。振り向いた小助に向い膝を
つく。黒く丸い頭を優しく撫でて頬を手で包み円らな瞳と目を合わせた。
「小助。短い間であったがおまえと過ごせて父も楽しかった。父上と呼ば
れてこそばゆかったが嬉しかったぞ」
小助は神妙な面持ちで聞いている。
「これからおまえがどんな道を歩もうとも父はいつでもおまえのことを
案じている」
円らな瞳が見張られた。
「おまえの行く先がおまえにとって良き道であるよう、幸多からんことを
祈っている」
小助の唇が何か言いたそうに開いた。しかし何も言わず目を伏せると小助
は扉を開けて出て行った。
「……晋助…」
小さな桂の呟きはすぐ横にいた銀時にだけ届いた。
一晩過ごした二階屋を見上げた。『万事屋銀ちゃん』の看板に目を眇め
る。ふざけた名前だ天パのくせにと思った。でも、あそこは暖かいところ
だったと思う。騒々しくバカバカしいが暖かいところだったと。銀時がや
っとの思いで手に入れて、桂が守ろうとしている場所。自分には関係ない
と思い直し歩き出した。
しばらく歩くと昨日桂と会ったところに差し掛かった。そこには背の高い
男が立っている。小助をみとめるとその男は並んで歩き出した。
「気がすんだでござるか?」
声をかけるが小助は返事をしない。
「こんな回りくどいやり方をせずとも、傍にいたいならさろうてくれば
良いのでござる。そうすればお主のことだけを見る人形にする方法はいく
らでもあるというもの」
相変わらず何も言わない小助に男ははあと溜息をついた。
「そんなものでは満足しないでござるなお主は」
「わかってんなら馬鹿馬鹿しいことを言うな」
高い子供の声には似つかわしくない口調で答える小助。
「人形なんか置いといたって意味がねェ」
「まったく我侭な大将でござる」
男は苦笑した。
「それで、彼らには気付かれなかったでござるか? 高杉晋助と」
「さてな」
素っ気無く答えた。気付かれていてもそうでなくてもどっちでも構わな
い。彼らが自分を捕まえることは不可能なのだから。だけど別れ際の桂の
言葉が胸を刺す。
(アンタは気付いていたのか? だからあんなことを言ったのか?)
桂の心からの餞の言葉。本当に小助という子供だったなら良かった。彼の
言葉を素直に受け止めることができただろうに。
自分は変わらない。自分で敷いた道を突き進むだけ。そこに何が立ち塞が
ろうと壊して進むだけ。
(甘っちょろい言葉なんぞいらねェ)
小助という名も餞の言葉も万事屋に置いてきた。かりそめの父でも子でも
ない。今からはまた敵同士。
「さっさと帰るぞ。万斉」
「承知」
万事屋ははるか後ろになった。
これで父上と小助の小噺は終わります。読んで下さってありがとうござい
ました。
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