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恵方巻き食べました。半分くらいで苦しくなりましたが、完食しました。腹一杯。皆様は召し上がりましたか?

節分で小噺です。つづきからどうぞ。

拍手ありがとうございました。拍手をいただけると本当に嬉しいです。大きな励みになっております。



居間の長テーブルの三方に立ち、銀時と新八と神楽は睨み合っていた。手には豆が入った枡を持っている。

「そんじゃあ豆まきすっからな。俺が鬼は外~っつっておめェらに豆ぶつけるから、おめェらは福は内~っつって部屋ン中に投げるんだぞ」
「何言ってるんですか銀さん」
「そうアル。なんで私たちが鬼役アルネ」
「ア~。俺はこの家の主だろ。俺が鬼を追い払う役に決まってンだろ」
「銀ちゃん横暴アル。私は豆ぶつけられるのは嫌ネ」
「僕だって鬼役は嫌です。こういうときは普通大人が鬼をやるもんじゃないですか?」

銀時は頭を振って溜息をついた。

「おめーらなァ。その若さで世間一般の枠にはまっててどうすんだ。大人が鬼じゃなくてもいいンだよ。ガキが鬼になったっていいンだよ」
「僕は世間一般の枠の中で生きていくんでいいです。世間の枠から外れた甲斐性無しの万年金欠男にはなりたくありません」

それって俺のことか? と銀時が思っていると神楽も喚いた。

「私はかぶき町の女王アル。そんな私に豆ぶつけてイイと思ってるアルか」
「うっせーンだよてめェらは。つべこべつべこべと。いいから黙って豆ぶつけられてろ!!」

言うなり銀時は枡の中の豆をつかんだ。

「おーにはァそとォ~」

鬼やらいの決まり文句を言いながら新八と神楽に向けて豆を投げた。

「そら次だ。おーにはァそとォ~」

ぱしぱしと豆が顔や体に当たる。

「銀さんやめてくださいよ」
「文句がちげーだろ。福は内って言うンだろ」

新八の抗議に耳を貸さず銀時は豆を投げ続ける。新八と神楽が逃げてもそっちに向かって投げているのだから、完全におもしろがっていた。

「も~。頭きたアル。このまま投げられっぱなしでいるなんておもしろくないアル」
「反撃しよう神楽ちゃん」
「オウ。ウチが貧乏なのは、甲斐性無しのダメ人間のクルクル天パのせいアルネ。体の中にだらけ鬼を飼ってるアル。ソイツを追い出せば、きっとまともになるネ」

新八と神楽も豆をつかむと銀時に投げつけた。

「オイィィ。鬼がなにやってンだ? なんで銀サンに投げるんだよ。俺は鬼じゃねーって」
「ウルセーーーー!!!」

今まで投げられた分を仕返ししようと二人は容赦なく豆を投げつける。銀時も負けじと豆を投げ返す。豆が乱れ飛び床は豆だらけになっていた。

「ヤメロ。てめーら。イテッ。やめろってば」

二対一ではさすがに分が悪い。銀時は居間から出て玄関へと逃げ出した。背中に豆がばしばし当たる。外に出ると、ピシャンと扉を閉めた。ドタドタと廊下を走ってくる音が聞こえる。

「なんだよアイツら。ちょっとふざけただけなのにムキになりやがって」

これ以上豆をぶつけられたら堪らないとどこかに逃げ出そうとして、ふと下を見た。

(オ。ヅラじゃん)

桂が歩いていた。

「オーイヅラァ」

声をかけると桂が上を向いた。銀時を見とめた桂の目元がほんの少し柔らかくなる。桂はそのままスナックの角を回ると見えなくなった。やがて階段を上がってくる音が聞こえた。

銀時は良いことを思いついた。扉を開けると玄関に入った。すると新八と神楽がすごい形相で手を振り上げていた。

「逃げるんじゃねー天パ」
「正義のつぶてを受けろコノヤロー」
「マテマテマテ。ちょーっとマテ」

二人を止める。

「まあまあ落ち着け。そんで豆を下ろせ」
「往生際が悪いですよ銀さん。僕たちには容赦なくぶつけたくせに」
「やられたら三倍返せって教えてくれたのは銀ちゃんネ」
「とにかく落ち着け。イイコト考えたんだから」
「なんですか? いいことって」
「誤魔化そうったってそうはいかないアル」

興奮状態の二人はなかなか言う事を聞かない。ったくこれだからガキは困るよと銀時はくしゃくしゃと頭をかき回した。

「イイ感じの的当てが来たンだよ。節分の鬼役が来た」

銀時の言葉に顔を見合わせる新八と神楽。

「いいか? おめェら。ソイツが来たら豆を投げつけるンだ」

いいなと念押しする銀時に二人は不承不承頷いた。

足音が近づいてくる。

「そら来たぞ。用意はいいか?」

ピンポンと呼び鈴が鳴った。

「ゥオーイ。開いてるぜェ。入ってこいよ」

銀時が声をかけるとややあって扉がガラガラと開いた。

「こんばんは……」
「鬼は~外ォ~!!!!!」

桂が挨拶をしたとき、三方からいっせいに豆が飛んできた。



「豆撒きをやっていたのか。節分だからな」

いきなり豆をぶつけられた桂は怒るでもなくはっはっはと笑っている。

「季節の行事をやるのは良いことだ」

怒っていないのは、新八と神楽がいるからだ。彼は子供には寛容だ。しかも日頃から可愛がっている二人だ。これが銀時だけだったら、頭から湯気を出して怒り、豆の投げ合いになっていただろう。

「豆撒きは良いとして、これはもう食したのか?」

これと言って、桂は持参した風呂敷をほどいた。中からは黒い海苔で巻かれた太巻き寿司が出てきた。

「うわあ。海苔巻きアル」

神楽が歓声を上げた。

「リーダーこれはだたの海苔巻きではないぞ。恵方巻きと言って、節分の時に食べる特別な海苔巻きなのだ」
「その年の恵方を向いて食べると縁起が良いとされているんですよね」

良く知っているな新八君と桂は目を細める。

「これ食べていいアルか?」
「食べてもらおうと思って持ってきたのだ。どうせ銀時は恵方巻きなど用意せんと思うたからな」
「ヅラ。グッショブアル。これがなかったら今日の夕飯は飯にたくあんだけだったアル」

うっせーよおめェは貧乏所帯をひからかすなと、銀時が神楽の頭をスパーンと引っぱたいた。

「俺とエリザベスで作ったのだ。今年の恵方は南南東だ。さあ皆で食べよう」

桂が促すとそれぞれ太巻きを物色しだした。

「アレ? コレだけ他のよりなんかデカクネ?」

銀時が指差す太巻きは他の物に比べて倍は太かった。

「これはリーダーの太巻きだ。リーダーはたくさん食べるからな。大きいのを用意した」
「たくさん食うっつったって、こんな太ェの口に入ンのかよ」
「入るネ。たとえ口よりでかくても顔中口にしてこの太巻きを食べてみせるネ」

神楽は特大の太巻きを手に持って食べる気満々だ。後の三人は普通の太さの海苔巻きを手に取った。

「それでは南南東に向いて。良いか。食べている間は言葉を発してはならぬぞ」
「なんでだよ。口もきかねェでもっさもっさ食うのかよ」
「そういう掟なのだ」
「ふ~ん。ンじゃまあいただきま~す」
「いただきま~す」

四人は南南東を向いて恵方巻きにかぶりついた。


「結構量あったな」
「全部食べたアル」
「美味しかったですね」

三人が三様に感想を述べる。

「なあヅラ。卵とか胡瓜とかでんぶの太巻きもいいケドよ。餡子入ってンのはねェの」

甘い物好きな銀時。海苔巻きの具が餡子だったら美味そうだと思った。

「おまえはそう言うと思うてな。粒あん入りの海苔巻きも作ってきた」

ほらこれだと見せられて銀時の顔が緩む。

「やった美味そうじゃん。やっぱ持つべきものは幼馴染みだねェ」

早速あんこ海苔巻きを食べ始める銀時。

「これは姉上に持っていってくれ」

桂は新八に恵方巻きを渡している。新八は喜び恵方巻きを受け取った。

銀時はすすっと桂の傍に寄って耳打ちした。

「今日泊まってけよ。そんで俺の恵方巻きも食ってほしいな~なんちゃって」
「俺の恵方巻き? おまえは用意してなかったのではないか?」
「俺の恵方巻きつったらアレだろが。空気読め」

頭を傾げて考えていた桂は、銀時の言う事に思い当たりぽかりと頭を殴ってやった。

「まったくおまえは。下品なことを言うな」
「だーって節分じゃん。恵方巻き食わないと」

桂は溜息をついた。

「仕方のないやつだ。わかった。おまえの恵方巻きとやらを食うてやる。その代わり俺のも食うのだぞ」

そんなの当ったり前じゃん。美味しくいただいてやるよとにへらと笑った。



















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