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WJ2・3号から8号の話で小噺です。ネタバレになりますので未読の方はご注意下さい。

それではつづきからどうぞ。


拍手ありがとうございました。小噺書いたりSSも半分以上できてきました。拍手を励みにがんばります。



飲み屋で一番強い酒をありったけ飲んでへべれけになった銀時は、往来でふらふらと立っていた。

「クソ~。ババアどもめ。人をハメやがってよォ。この落とし前はきっちり返させてもらうからなァ~~。ウィーヒック」

ふらふらしながらくだを巻く。飲んで憂さを忘れるはずだったが、今回の事はあまりにも衝撃的過ぎて、ちょっとやそっとで忘れることなんてできない。却って悔しさが増大してしまった。

「神楽も新八もあんまりじゃねェかよォ。おめェらは信じてたのに。ヒック。アイツらまでグルだったなんて俺はもう誰も信じらンねェよ」

酔っ払いがぶつぶつ独り言を言っているが、この時間素面でいる人間の方が少ないから誰も気にしない。

「クッソ~。腹たってきた。ちょっと飲みすぎたくれェでなんであんなひでェ目に合わなきゃなんねんだよ」

ぐしゃぐしゃと癖の強い髪をかき回す。

「もーウチに帰ェる気になんねェ。神楽も新八もババアも猫耳もいるところになんか金輪際帰ェるもんか」

銀時は千鳥足で歩き始めた。

「銀サンはうちには帰りませんからねー。万事屋がどうなってもいいもんねー。俺がいなかったどんなに大変か思い知ればいいンだよコンチクショー。ヒック」

家に帰らないと決めた銀時の行き先は一つしかない。

「オットトトトォ…。アリ? 俺真っ直ぐ歩ってるよな。なんか道が斜めに見えるンだケド…」

ふらふらと危なっかしい足取りで、それでも酔っ払いの帰巣本能で行く道は間違っていなかった。




寝る支度をしていると、玄関先が騒々しくなった。大声で叫び、扉をダンダンと叩いている。

『見てきましょうか?』

エリザベスが看板を掲げた。

「良いエリザベス。どうせあのクルクルだ。俺が行ってこよう」

ヅラーヅラーと叫んでいる。その声は銀時。桂は溜息をつくと玄関に向かった。相変わらずヅラヅラとうるさい。

「ヅラじゃない。桂だ」

決まり文句を言いながら鍵を外すと扉を開けた。

「何用だ銀時。こんな時間に」

不機嫌も露わな声を出すと銀時が飛びついてきた。

「ヅラァァァァッッッ!!!」
「うわわっっ。なんだ銀時?」

勢いによろけながら銀時を受け止めた。

「ヅラァ。ヅラァ」
「だからなんだと言うのだ。それに俺はヅラじゃない桂だ」

銀時はぎゅうぎゅう抱き付いてくる。

「酒臭いぞ銀時。相当に酔っているな」

鼻をつく強い酒の臭いに顔をしかめた。しかし銀時はお構いなしに酔っ払いの力任せで抱きついている。

「俺おめェだけだから。ホントにおめェだけだから」
「何を訳のわからぬことを言っているのだ」
「だからおめェだけだって。俺にはおめェしかいないンだって」
「だからなにを?」
「他の誰もヤらねェ。ハメんのはてめェだけだから!!!」

大声で銀時が叫んだ。夜中、玄関先でこの大声。近所迷惑なことこの上なし。しかも言うにことかいて何を言い出すのかこやつは。

「この馬鹿者がッッッ!! 大きな声で何を言っているのだ」

桂はぐいと銀時を突き放すと思いっきり頭を殴りつけた。それからなんやかんやと駄々をこね、桂の家に上がり込んだ。

銀時は、お登勢たちの陰謀で酷い目に合わされたことを延々と話した。怒ったり泣いたりぐずったり。相手をした桂はげっそりしてしまった。なのに話すだけ話したら気がすんだらしく畳に転がるといびきをかき始めた。

寝入りばなに家に押し掛けられて、散々繰言を聞かせ先に寝てしまった銀時を前に桂はなんともいえない顔をしていた。

「まったくこやつは人の迷惑も考えずに。怒れば良いのか笑えば良いのかわからぬわ」

桂はエリザベスを呼んで、寝所にもう一組の布団を用意させた。それから二人で銀時を運び、寝苦しくないようにと白い着物を脱がせると布団に突っ込んだ。




「うん…」

光を感じて目が覚めた。のっそりと体を起こすと頭がズキンと痛んだ。

「いてて…。頭いてェ…」

ずうんと重く痛む頭、ムカムカと胸焼けするこの感じは。

「うええ。二日酔いかよオイ…。昨日は確か…。飲み屋でしこたま飲んでそれから…」

飲み屋でヤケ酒をあおったことは憶えている。しかしその先があやふやだ。

「ダメだ。思い出せねェ…。っつかここどこだ…?」

自分の部屋じゃない。六畳くらいの和室。部屋の隅には一組の布団が綺麗に畳まれている。

え? ウソ? マジで? こないだと同んなじ状況じゃねェか。

「ぎぃやぁぁぁぁ!!!」

銀時は頭が痛いのも忘れて飛び上がった。

「なななななんでこんなコトになってンだ。またドッキリか? またハメられたのか? 酒飲んだからか? 復讐する前に報復されちまったのか?」

ああああなんてこった。またおんなじことやらかしたなんて。また不祥事だよもうなんて言って申し開きしたらいいかわかんねェよと頭を抱えていると襖が開いた。

「おお。銀時起きたのか」

涼やかな声が聞こえて桂が入ってきた。

「アリ? ヅラ…?」

銀時が目を見張る。

「ヅラじゃない。桂だ。大丈夫か銀時。昨夜はへべれけであったからな。二日酔いになっているのではないか?」
「なんでおめェがいるの?」
「なんでと言われてもな。ここは俺の家だ。おまえ何も憶えていないのか? 夜中に酔っ払って押し掛けて来たのだぞ」

銀時はポカンと口を開けた。

「散々騒いでその後ぐーすか眠りおった。仕方がないので泊めたのだ」
「あーそうなんだ。悪ィ俺なんにも憶えてなくてよ。世話かけちまったな」

騒々しくて敵わなかった酔っ払いは困ると桂がぶつぶつ言っている傍で銀時は大きく安堵の溜息をついた。

(あー良かった。不祥事起こしたンじゃなかった。例えハメちゃったンでもヅラなら問題ねェしな)

もう六人いっぺんの同棲生活もデートも金タマ六個に割られそうになるのもこりごりだ。

「粥を炊いておいた。食べられそうなら食べると良い」

さすがに桂は用意が良い。二日酔いでまともに飯が食えないだろうと食べやすいものを用意してくれている。

「その後風呂に入れ。酒を抜かないとな。まだ随分と酒臭いぞ」




粥を食べ風呂に浸かった銀時は気分もマシになり、白い着物を羽織ったまま居間で寛いでいた。桂がいちご牛乳が入ったコップを盆に乗せて持ってきてくれた。

「サンキュー。ヅラ」

コップを手に取ると一気飲み。

「プワーッ。あーやっと人間らしい気分になった」
「それは良かったな」

桂がくすりと笑った。

自分はお茶を飲みながら銀時に話しかける。

「それにしても随分と酷い目に遭うたようだな」

それを聞いて銀時はギクッとした。

「俺夕べなんか言ってた?」

桂の家に来たことも憶えていないのだ。話をしたことももちろん憶えていない。何を口走ったのかすごく気になる。

「おまえが忘年会でハメを外し過ぎて、お登勢殿たちにきつい灸を据えられた話だ」

銀時は頭を抱えた。やっぱりその話をしていたのか。桂には知られたくなかった。例えドッキリでも六人の人間と関係を持ったと思い込み、同棲まがいのことをしたのだ。桂に知られたら呆れられるか怒り狂うか、もしかすると愛想を尽かされてしまうかもしれない。そーっと顔を上げて桂の表情を伺うと、呆れても怒ってもいなかった。いつもの綺麗な澄まし顔だ。

「大変な目に遭うたのは気の毒だったが、それも身から出た錆だ。おまえが皆に迷惑をかけたからそのような始末になったのだ。これに懲りたら酒はほどほどにすることだな」
「肝に命じときます」

怒らない桂にほっとしながら殊勝に返事をした。

「それから家に帰りたくないとも言うていたな。帰りたくないならしばらくここにいても良いぞ」

そんなことまで言ったのか。でも家にいたくないのは事実なので、ニ、三日やっかいになることに決めた。

それからしばらくして桂は用があると出かけて行った。ゆっくりしておれとの言葉に甘えて、もう一度布団に入って昼寝をすることにした。




桂はスナックお登勢の扉を開けた。

「こんな時分にあいすまぬ。お登勢殿はいらっしゃるか?」

声をかけるとややあって、おや桂さんと言いながらお登勢が出てきた。まあお座りよとの言葉に桂はカウンターの椅子に座る。

「それで今日はどうしたね? 銀時が泣きつきにでも行ったかい?」
「さすがにお登勢殿。その通りだ」

お登勢は煙草を口に咥えたままくくくっと笑った。

「アイツも馬鹿だねェ。まあ泣きつきに行く所があるだけマシかね」

それでどんな風だったと聞くのに答える。

「お登勢殿たちの仕打ちに散々文句を言っておった。したたかに酔っ払っていたのでくどくどくどくどと」
「そうかい」

お登勢はおかしくてたまらない。

「文句を言ってはおったが相当に堪えている様子であった」
「そりゃあね。あんだけのことをされたらね」

でもアイツが悪いのさ。これで堪えなかったら見限るよとお登勢は容赦ない。

「だけどアンタには悪いことをしちまったね。同棲だの結婚だのと気分が良くなかっただろ?」
「否。案ずることはない。今回の企みを先に知らせてくれていたので気にもならなかった」

お登勢は銀時と桂の関係を知っている。桂が誤解しないように前もって話してあったのだ。

「結局はアンタなんだね桂さん。あんな甲斐性なしのダメ人間にアンタのような人がいるのが不思議だよ」
「腐れ縁の長い付き合いだ。あれの駄目なところも散々見てきた。今更駄目駄目なところを見ても驚かぬ」

それに銀時はおまえだけだからと言っていた。酔っ払って理性が飛んでいる時に言ったのだ。本心の言葉だ。

おまえだけだからと叫んだ銀時を思い出して桂はふっと笑った。






銀ちゃんお疲れ様。

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