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WJ48号49号から小噺です。ネタバレになりますので、未読の方はご注意を。続きにお入りください。


拍手ありがとうございました。次の話が難産中。拍手を励みにがんばります。





「チャランポランのクソ親父か…」

車の後部座席に座った桂が呟きくすりと笑った。

「はい? 何かおっしゃいましたか?」

運転席の中崎が問う。

「いや。何でもない」

そう言いながらも口調は楽しげだ。

「ご機嫌のようですね。楽しいことでもありましたか?」
「ああ。そうだな。良い物を見せてもらった」
「…長官のことでしょうか…?」
「…さてな」

中崎とのやりとりも楽しそうな口調を崩さない。

「江戸のクソ親父の姿、しかと見せてもらった」
「やはり長官のことじゃないですか」
「そうだな」

桂はふふと笑って話し続ける。

「家庭での松平公は妻にも娘にも相手にされない駄目親父であった。パンツを自分で洗っている背中はとても小さく壊れそうであった。したが先ほどの松平公は違う。真っ直ぐで強く揺るぎない背中を見せてもらった。真の侍の背中だ」

家に居場所がなかろうが、キャバクラに通いつめてキャバ嬢に貢ぎまくっていようが、彼はやはり警察庁長官、江戸における全ての警察機構のトップに立っている漢だった。

「松平公は良き漢、良き父、良き侍だ」
「そう思っていただけて嬉しいです。長官は立派な方です。ずっとお傍にお仕えしている私にはわかります。ですが、そんな風に長官を褒めて良いのですか? エヅラ子さん。あなたにとって長官は敵。敵を褒めてよいのですか?」

中崎が気づかわしげに聞いた。

「そうだな。確かに松平公は我らの敵。恨みつらみがないと言えば嘘になる」
「やっぱりそうですよね…」

松平のやり方はとにかく荒っぽい。破壊神と名を取る由縁だ。

「したが、我らは有象無象のテロリストではない。攘夷の旗のもとに国を変えようと高邁な理想を掲げ活動している。敵のことを知り認めることは恥でもなんでもない。松平公が戦いがいのある漢とわかり俺は嬉しい」
「エヅラ子さん…」

チャランポランでも良い。クソ親父でも良い。いざこの時に護りたいものを護れる魂があれば良いのだ。

(しかし醜聞をつかむつもりが、相手を認めることになるとは皮肉な物だ)

そう思いながらも気分は良い。

それにしても自分はチャランポランとは縁があると思った。そしてそういう男が嫌いではないと思う。桂は良く見知ったもう一人のチャランポランを思い浮かべていた。そうしたら強烈にそのチャランポランの顔を見たくなった。

「中崎殿。相すまぬがかぶき町に行ってはくれまいか?」
「かぶき町ですか? わかりました。かぶき町のドブ川に捨てれば良いのですね」

中崎が楽しそうに言って車をかぶき町に向けた。




「中崎殿。この辺りで良い。止めてくれ」

後少しでかぶき町というところで車を止めさせた。先の方では飲み屋や風俗店のネオンが軒を連ねて輝いている。

「エヅラ子さん。ご協力感謝します。長官をサポートしてくださってありがとうございました」
「いや。こちらも世話になった。礼を言う。ありがとう」
「エヅラ子さん。お元気で」
「中崎殿も達者でな。職務に励み松平公を良く助けるのだぞ」
「はい」

ドアを開けて車を降りようとした桂を中崎が止めた。

「エヅラ子さん。いえ、桂さん…。またいつかお会いできるでしょうか?」

それを聞いて桂はふっと微笑んだ。

「またいつか合間見えることもあるだろう。この国を変えるまで俺は攘夷をやめぬからな。ただし今度会った時は敵同士だ。旧知と言えど容赦はせぬ」
「わかりました。こちらだって容赦はしませんよ」

中崎の顔にも笑みが浮かんでいた。




人通りの多い道を万事屋に向かって歩いていた。もう一人のチャランポランは今頃何をやっているだろうか? 酒を飲んでいるかジャンプを読んでいるか。いずれにしろいつものごとく、ぐうたらしているのだろう。
それで良いと思った。銀時のチャランポランは子供の頃から慣れ親しんだ物だ。今更変わられたら戸惑ってしまうだろう。やる気がなくてぐーだらでまるでだめなおっさんの見本のような男でも、それが銀時なのだ。そんな銀時と連れ添ってきたのだ。

(俺は知っているからな。おまえはチャランポランでも、一本真っ直ぐな芯が通っていることを)

いざこの時に、銀時は己の護りたいものを全力で護る。真っ直ぐで強く揺るぎない背中で。桂はその背中を知っている。その背中に何度も護られた。

(松平公が江戸のクソ親父ならおまえはクソ兄貴というところか)

階段を上がり玄関の前に立つ。提灯に灯がついているところを見ると、留守ではないらしい。呼び鈴を押してしばらく待つと、ドスドスと足音が聞こえてきた。

「誰だァ~?」

銀時の声。

「桂です」

名乗るとがららららと扉が開いた。

「ンだおめェかよ。っつかなんてカッコしてやがるンだ? 今度はどんな新しい扉開いちゃったの?」

桂は家政婦スタイルのままだった。

「これはだな。テロリストを殲滅するサポートをするためのユニフォームなのだ」
「ハィィィ? 何ワケのわかんねェこと言ってやがるンだ。まんま家政婦さんのカッコだろ。手に持ってンのは三角巾だろ。おめェは市原悦子さんですかコノヤロー」
「市原悦子さんじゃないエヅラ子だ。否間違った。桂だ」
「また攘夷のなんとかとか攘夷のなんとかとか攘夷のなんとかをやってたってワケ?」

銀時が鼻に皺を寄せて聞く。

「まあ。当たらずとも遠からずだ。それより上がらせてもらっても良いだろうか? 銀時」

このまま玄関先でドツキ漫才をしていても仕方がない。

「上がれば。っつーか俺はこれから飲みに行くとこだったンだよ」
「そうなのか。それは邪魔をしてしまったな」
「ったくその通りだ。てめェはいつもいつも俺の邪魔をしやがって。でもまあいいや。ちょうどイイからおめェも付き合え。着物貸してやっからそのヘンテコな服脱げ」
「ヘンテコか? 俺は結構気に入っているのだがな。家政婦プレイには興味ないか?」

桂はしなを作ると裏声で喋り始めた。

「旦那様いけません。奥様に見つかります。そうなったらこちらにご奉公ができなくなります」

そう言われて銀時は桂をつらつらと眺めた。

「いいかも」

銀時がにへらと答える。

「だけどソレは後ね。今は飲みに行こうぜヅラ。パチンコで買っちゃってさあ~」

いやー今日はついてたチューリップがぱかぱか開いて私のところに来てって色目使いやがってさ~と引き出しを開けて桂が着れそうな着物を見繕いながら楽しそうに話す銀時。

「今日は一日パチンコをしていたのか?」

渡された着物を受け取って聞く。

「んー。まあそうね。今日は仕事なかったから、パチンコ行って、パフェ食いに行って、ついでに団子も食って、ンでジャンプを読んでつつがなく過ごしたってワケ」
「チャランポラン…」
「あ?」
「チャランポランと言ったのだ。良い大人が仕事もせずにパチンコだのパフェだのとチャランポラン以外の何者でもないだろう」
「んだコラ。ケンカ売ってンのかバカヅラ」
「バカヅラじゃない。桂だ」

おまえのようなチャランポラン見たことがない。そう言いながらも溢れてくる愛しさに胸が一杯になった。



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