日々諸々
H21年1月30日登録
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本日のよりたまさんから小噺です。続きへどうぞ。
新八と神楽、そして万事屋とも別れて一人歩き出した。
必死になって記憶を取り戻そうとしてくれた二人。きっと彼らは以前の自分と深い関わりが、親しい関係があったのだろう。でもそれを思い出すことができない。彼らが必死になればなるほど、それに答えられない自分が虚しくて、離れる決心をした。
そうは言っても何もわからない自分がどこへ行けば良いのだろう。記憶がないということは、こんなにも心細いことなのか。自分の人と形。住まいや仕事。そして友人や知人。きっと大切なことが一杯あったはずなのに、それらはどこへ落っことして来てしまったのか。
「はあ~。どこへ行ったらいいのやら。皆目検討つかないよ」
銀時は夕暮れの町を歩きながら、溜息をついた。
人出に紛れて会合帰りの桂が歩いていた。数歩先に俯いて通りに立ち尽くしている男に気が付いた。
「あれは…。銀時ではないか…」
着流しの上に羽織を着ている銀時を見て、彼の記憶がまだ戻っていないのだと思った。
桂は足を速めて近づいた。
「銀時。銀時ではないか」
驚かせないように静かに声をかけた。
「どうしたのだ銀時。こんなところで」
そろそろと銀時の顔が上がった。ほの赤い眼が心元なげに揺れている。
「どうした? 銀時。新八君やリーダーはいっしょではないのか?」
「あなたは誰ですか?」
か細い声で銀時が聞いた。
(ふむ。やはり記憶は戻っていないようだな…。というかますます悪化しているのではないか? 一度会った俺のことを忘れているとは…)
桂はひっそりと溜息をついた。
「俺は桂だ」
「桂さん?」
目をぱちぱちしながら問い返す銀時。
「桂さんじゃない。ヅラだ。……いや、合っていた桂だ。おまえに桂さんなどと言われると調子が狂うな」
苦笑いする。
「あなたも僕が知っている人なんですか?」
「うん。まあ知り合いと言えばそうだ」
腐れ縁の幼なじみの連れ合いだと言っても銀時を混乱させるだけだ。
「それでどうしたのだ? 一人でどこへ行こうとしていたのだ?」
「新八君にも神楽さんにもこれ以上迷惑をかけたくないので出てきました」
「万事屋を出てきたのか? おまえの家を?」
「僕の家…と言われても思い出せないし、それに家には宇宙船が墜落してどの道戻れない状態なんです」
話を聞いて困ったことになったと思った。万事屋にいて新八と神楽の傍にいれば、自然と記憶が戻るのではないかと思っていたのに。
「それで…。どこか行くあてはあるのか?」
銀時は首を振った。子供達に迷惑をかけたくないとの一心で後先考えず出てきてしまったのだろう。
「それなら俺がつきあってやろう。時刻も良いころだ。一杯どうだ?」
猪口を傾ける仕草をした。
「でも…」
迷っている銀時。
「こんなところで突っ立っていても仕方がないであろう。さあ銀時」
桂は銀時の手を取った。引っ張られるように歩き出す。その時ふわりと良い匂いが漂った。甘く優しい香り。桂の長い黒髪の。それを嗅いだとき銀時の胸が締め付けられた。
(この匂い…。どこかで…)
何かを思い出せそうになったが、引き寄せる前に霧のように消えていった。
銀時と何度か来たことのある居酒屋へ連れて行った。日本酒とつまみを頼む。銀時は落ちつかなげに辺りを見回している。
「思い出さぬか? この店には何度か来たことがあるのだぞ」
首を振る銀時。
「そうか。それならそれで良い。無理に思い出さずともよかろう」
そう言うと、目に見えて銀時がほっとした顔をした。
(もしかすると、記憶を取り戻させようとやっきになることが銀時に重圧を与えていたのかも知れぬな…)
酒とつまみが運ばれてきた。桂は銀時の猪口に酒を満たし、自分の猪口にも注いだ。
「さあ。飲むと良い。飲めば憂さも晴れる」
勧めると銀時がおずおずと手を出して猪口を取った。そして口元に持っていき傾ける。
「どうだ? 美味いか?」
聞くとこくんと頷いた。美味くて当然だ。彼の好みの酒を注文したのだから。
「それは良かった。さあ、どんどん飲むと良い。今夜の宿は心配せずとも良いぞ。俺のところに来るがいい」
銀時が目をぱちぱちさせた。
「ここへ連れてきてもらった上に、泊まらせてもらうなんて…」
桂がふふと笑った。
「心配はいらぬ。これも何かの縁。遠慮なく俺の家に来てくれ」
銀時は桂の好意に甘える事にした。
「二人は一生懸命に僕の記憶を取り戻そうとしてくれたんです。でも少しも戻らなくて。段々辛くなってきて…。それに以前の僕はだらしのない男で二人に給料も払っていなかったそうで。それなら彼らと僕は縁を切ったほうがいいんじゃないかと思ったんです」
酒が入ってようやく銀時がしゃべりだした。
「そうか…。おまえも辛いが、子供達も辛いところだな。なんやかんやで彼らはおまえを慕っておった」
それを聞いて銀時が視線を落とす。
「しかし無理に記憶を取り戻す事もない。おまえのことだ。失くしたときと同じように、いずれひょっこりと戻ってくることもあるだろう。今はおまえができることをやっていれば良いのではないか? その方がおまえも楽であろう」
銀時は目を見開いた。無理に思い出さなくても良い。心が軽くなったような気がした。
「桂さんは優しい人ですね」
「なにおせっかいなだけだ」
もし記憶を取り戻せたら、真っ先に今向かいにいる長い黒髪の人を思い出したいと思った。
必死になって記憶を取り戻そうとしてくれた二人。きっと彼らは以前の自分と深い関わりが、親しい関係があったのだろう。でもそれを思い出すことができない。彼らが必死になればなるほど、それに答えられない自分が虚しくて、離れる決心をした。
そうは言っても何もわからない自分がどこへ行けば良いのだろう。記憶がないということは、こんなにも心細いことなのか。自分の人と形。住まいや仕事。そして友人や知人。きっと大切なことが一杯あったはずなのに、それらはどこへ落っことして来てしまったのか。
「はあ~。どこへ行ったらいいのやら。皆目検討つかないよ」
銀時は夕暮れの町を歩きながら、溜息をついた。
人出に紛れて会合帰りの桂が歩いていた。数歩先に俯いて通りに立ち尽くしている男に気が付いた。
「あれは…。銀時ではないか…」
着流しの上に羽織を着ている銀時を見て、彼の記憶がまだ戻っていないのだと思った。
桂は足を速めて近づいた。
「銀時。銀時ではないか」
驚かせないように静かに声をかけた。
「どうしたのだ銀時。こんなところで」
そろそろと銀時の顔が上がった。ほの赤い眼が心元なげに揺れている。
「どうした? 銀時。新八君やリーダーはいっしょではないのか?」
「あなたは誰ですか?」
か細い声で銀時が聞いた。
(ふむ。やはり記憶は戻っていないようだな…。というかますます悪化しているのではないか? 一度会った俺のことを忘れているとは…)
桂はひっそりと溜息をついた。
「俺は桂だ」
「桂さん?」
目をぱちぱちしながら問い返す銀時。
「桂さんじゃない。ヅラだ。……いや、合っていた桂だ。おまえに桂さんなどと言われると調子が狂うな」
苦笑いする。
「あなたも僕が知っている人なんですか?」
「うん。まあ知り合いと言えばそうだ」
腐れ縁の幼なじみの連れ合いだと言っても銀時を混乱させるだけだ。
「それでどうしたのだ? 一人でどこへ行こうとしていたのだ?」
「新八君にも神楽さんにもこれ以上迷惑をかけたくないので出てきました」
「万事屋を出てきたのか? おまえの家を?」
「僕の家…と言われても思い出せないし、それに家には宇宙船が墜落してどの道戻れない状態なんです」
話を聞いて困ったことになったと思った。万事屋にいて新八と神楽の傍にいれば、自然と記憶が戻るのではないかと思っていたのに。
「それで…。どこか行くあてはあるのか?」
銀時は首を振った。子供達に迷惑をかけたくないとの一心で後先考えず出てきてしまったのだろう。
「それなら俺がつきあってやろう。時刻も良いころだ。一杯どうだ?」
猪口を傾ける仕草をした。
「でも…」
迷っている銀時。
「こんなところで突っ立っていても仕方がないであろう。さあ銀時」
桂は銀時の手を取った。引っ張られるように歩き出す。その時ふわりと良い匂いが漂った。甘く優しい香り。桂の長い黒髪の。それを嗅いだとき銀時の胸が締め付けられた。
(この匂い…。どこかで…)
何かを思い出せそうになったが、引き寄せる前に霧のように消えていった。
銀時と何度か来たことのある居酒屋へ連れて行った。日本酒とつまみを頼む。銀時は落ちつかなげに辺りを見回している。
「思い出さぬか? この店には何度か来たことがあるのだぞ」
首を振る銀時。
「そうか。それならそれで良い。無理に思い出さずともよかろう」
そう言うと、目に見えて銀時がほっとした顔をした。
(もしかすると、記憶を取り戻させようとやっきになることが銀時に重圧を与えていたのかも知れぬな…)
酒とつまみが運ばれてきた。桂は銀時の猪口に酒を満たし、自分の猪口にも注いだ。
「さあ。飲むと良い。飲めば憂さも晴れる」
勧めると銀時がおずおずと手を出して猪口を取った。そして口元に持っていき傾ける。
「どうだ? 美味いか?」
聞くとこくんと頷いた。美味くて当然だ。彼の好みの酒を注文したのだから。
「それは良かった。さあ、どんどん飲むと良い。今夜の宿は心配せずとも良いぞ。俺のところに来るがいい」
銀時が目をぱちぱちさせた。
「ここへ連れてきてもらった上に、泊まらせてもらうなんて…」
桂がふふと笑った。
「心配はいらぬ。これも何かの縁。遠慮なく俺の家に来てくれ」
銀時は桂の好意に甘える事にした。
「二人は一生懸命に僕の記憶を取り戻そうとしてくれたんです。でも少しも戻らなくて。段々辛くなってきて…。それに以前の僕はだらしのない男で二人に給料も払っていなかったそうで。それなら彼らと僕は縁を切ったほうがいいんじゃないかと思ったんです」
酒が入ってようやく銀時がしゃべりだした。
「そうか…。おまえも辛いが、子供達も辛いところだな。なんやかんやで彼らはおまえを慕っておった」
それを聞いて銀時が視線を落とす。
「しかし無理に記憶を取り戻す事もない。おまえのことだ。失くしたときと同じように、いずれひょっこりと戻ってくることもあるだろう。今はおまえができることをやっていれば良いのではないか? その方がおまえも楽であろう」
銀時は目を見開いた。無理に思い出さなくても良い。心が軽くなったような気がした。
「桂さんは優しい人ですね」
「なにおせっかいなだけだ」
もし記憶を取り戻せたら、真っ先に今向かいにいる長い黒髪の人を思い出したいと思った。
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