小噺

昨日のよりぬきさんの子連れ夫婦が気に入って小噺を思いつきました。
続きからどうぞ。

「そら銀時。おしめを買ってきてやったぞ」
そう言って托鉢僧姿の桂が紙おむつのパックを下げて戻ってきた。
「紙でできたおしめがあるなど初めて知った。今は随分と便利な物があるのだな」
「サンキュー。ヅラ。悪かったな」
坊さんの形をした男がおむつを買いに来たのだから、店の者もさぞ驚いただろう。
「俺がやってやろうか？　おまえには無理だろう」
桂がどことなくうきうきとした調子で言ってくる。
「おめェはいいから。俺がやるから。おめェは托鉢に戻ってろ」
パックをぴりぴり開けおむつを出しながら返事をする。
赤ん坊の世話をしたかった桂はそっけない銀時の返事につまらなそうな顔になった。
「ケチなやつめ。俺にも少しくらい構わせてくれても良かろうが」
心の狭い男だな。なあ小銀時と桂は赤ん坊に話しかける。
「ねェ。ちょっと待って。ナニ？　ナンなの今の。小銀時ってナニ？」
「この赤子の名前だ。おまえの子なのだろう？　おまえにそっくりではないか。だから小銀時だ」
「いつ誰が俺の子だっつったよ。俺の子じゃねェよ。てめェはバカですか？　コノヤロー。なんだよ小銀時って。落語家じゃあるめェし。ヘンな名前つけンのやめてくれない？」
「そうか？　良い名前だと思うが」
真面目な顔で言い切る桂。銀時は頭を抱えた。なんでみんな俺にちなんだ名前をつけるンだよ。ホントにコイツは俺の子じゃねェンだって。
「あーもう。ホントにおめェどっか行って。托鉢でもお経でも上げに行って」
赤ん坊から離れたくない桂。特にふわふわの髪の毛を撫でてみたい。しかし銀時がしっしと追い払う。しばらくぐずぐずしていたが、ふうと溜息ををついた。
「それなら俺は退散するとしよう。おまえの子守の邪魔をするのは本意ではないからな」
「あーそうね。子守は俺一人で充分っつーか。それに危ねェ野郎がウロウロしてンだ。おめェがいるともっと面倒になるだろ」
「したが銀時。今夜万事屋に行っても良いだろうか？」
「ハイィィ？」
「夜もこの子の面倒を見るのであろう？　俺も手伝ってやろう。いっそのことおまえと俺でこの子を育てるというのはどうだ？　おまえとなら子育てできそうな気がする」
すっとこどっこいなことを言い出した桂に銀時のこめかみに青筋が浮く。
「子育てなんて誰がするかァァァァッッッ！！　てめェは早く空き缶の前に戻りやがれェェェッッッ！！」
思いっきり蹴りを喰らわせた。


去っていく桂の後姿を目で追いながらあー疲れたと思う。桂がいると赤ん坊のおむつを変えるのも一苦労だ。
「あのバカのせいで遅くなっちまった。今濡れてンのとっかえてやるからな」
「バブー」
ゴソゴソと紙おむつを広げていると、赤ん坊が何か喋った。
「あーナニ？　ナニが言いてェの？」
赤ん坊は桂が去って行った方向を見ている。
「ナニ？　アイツが気になるの？」
「な」
「なんだよ。追い返したのだ気に入らねェのかよ」
「ダ」
肯定しているらしい。
「おめェアイツのこと気に入っちゃったの？」
「バブ」
赤ん坊がこっくりと頷いた。
「ソイツはダメだな。あのバカはおめェにはやれねェよ。アイツは世界一のバカで怪電波の持ち主だけどよ。あんなんでも俺のアレだから」
「ブー」
「文句言っても聞きませんー。色気づくなんててめェにはまだ早えェよ。そらちゃっちゃとおむつとっかえるぞ」
ヅラのヤツ。こんなガキまで惑わしやがって。イヤイヤイヤ。いくらなんでもそれはねェか。そうかアレだ。アイツ髪が長ェから女に見えたンだ。かーちゃんのことでも思い出したンだろ。カーちゃん的なアレに見えたンだな。それならアイツと俺でコイツを育ててもいいかもしんない。
「エエエ？　ちょっと待って。今俺さむ～いこと考えなかった？」
「バブー」
早くおむつを替えてくれとばかりに、頭を抱えた銀時の癖の強い髪を赤ん坊が引っ張った。



ヅラは「おむつ」ではなく「おしめ」と言う気がする。